音楽ジャンル解説

【音楽ジャンル】ディキシーランドとは?(ホットジャズ、トラディショナルジャズ)

今回は英語版wikipediaの「ディキシーランド」をまとめました。

ディキシーランド(ホットジャズ、トラディショナルジャズ)について、よく使われる楽器や編成、歴史について解説していきます。

ディキシーランドとは?

ディキシーランドは、ジャズをベースとして20世紀の初めにアメリカ・ニューオリンズで発展した音楽ジャンルのことです。

ホットジャズ(Hot Jazz)やトラディショナルジャズ(Traditional Jazz)と言われることもあります。

Dixieland & Dixieland Jazz: FULL ALBUM (Dixieland Music 1920s Jazz Music Instrumental)

最初に「ディキシーランド」という言葉が使われたのは、アメリカのとあるバンドの名前「Original Dixieland Jass Band」とされています。

彼らが1917年に発表した楽曲により、この「新しい音楽スタイル」は普及し始めました。

Original Dixieland Jass Band - Livery Stable Blues (1917)

ちなみに「ディキシー(Dixie)」は、南北戦争前のアメリカ南部の州を指す言葉です。

ディキシーランドで使われる楽器

ディキシーランドでは、主に以下の楽器を使用して演奏されます。

・コルネット
・トランペット
・トロンボーン
・クラリネット
・チューバ
・バンジョー
・ピアノ
・キーボード
・ダブルベース(ウッドベース、コントラバス)
・ドラム
・ギター
・ボーカル

ディキシーランドにおける楽器編成

ディキシーランドにおける楽器編成や編成規模はとても柔軟性が高いですが、「通常のバンド」においては、以下の編成が一般的です。

フロントライン

トランペット(orコルネット)、トロンボーン、クラリネット

リズムセクション(少なくとも以下の2つ)

ギター(orバンジョー)、ストリングベース、チューバピアノ、ドラム

有名なLouis Armstrongの「All-Stars」は、1940年代におけるディキシーランドにおいて最も人気を集めたバンドです。

The Louis Armstrong All Stars - Someday (Goodyear film 1962) [official HQ video]

ディキシーランドのサウンドの特徴としては、「ある一つの楽器(多くはトランペット)がメロディー」「わかりやすいパラフレーズ(言い換え)かもしくはそのバリエーションを演奏する」があります。

これが、ビッグバンドのサウンドやストレートでわかりやすいメロディーが特徴のビーバップなどのアンサンブルよりも、より「ポリフォニック」なサウンドを生み出しているのです。

また、上記の楽器を使って、2ビートで「集団即興」をするのも大きな特徴の一つです。

ディキシーランドで使われる「2ビート」とは?

2ビートは、1・3拍目を強調した音楽のことです。

マーチやラグタイム、カントリー、ブルースなどでもよく使われます。

2ビートの曲の例(ディキシーランド)

Black Bottom Stomp (1988 Remastered)

2ビートの曲の例(ジャズ)

That Travelin' Two-Beat

2ビートの曲の例(ラグタイム)

The Entertainer

ディキシーランドの歴史

ここからは、ディキシーランドについて解説します。

1917年:ディキシーランドのはじまり

ディキシーランドの始まりは、1917年にさかのぼります。

アメリカのバンド「The Original Dixieland Jass Band」が1917年に最初の作品を発表すると、「ディキシーランド」と呼ばれる新しいジャズの形が誕生します。

しかし、この頃はまだこのバンドを指している言葉であり、「音楽ジャンル」としては捉えられていませんでした。

Original Dixieland Jass Band - Livery Stable Blues (1917)

The Original Dixieland Jass Bandのサウンドの特徴

彼らは、アフリカ系アメリカ音楽とニューオリンズ・ラグタイム、そしてシチリア音楽(シチリアはイタリア半島南西端)を組み合わせたサウンドが特徴的でした。

1910年代のニューオリンズにおいて、シチリア音楽は教会音楽やブラスバンド、ブルースと並んで人気だった音楽ジャンルの一つでした。

シチリア音楽

The Best Italian Traditional Music - Sicily | Folk Music

「ディキシーランド」という言葉の意味の変化

そのずっと後、1940年代から1950年代にかけて、トラディショナルジャズのリバイバル(再度注目を集めるブーム)を起こした人たちによって、「ディキシーランド」という言葉は初期のジャズに対して使われ始めました。

この名前は「オールドサウス(Old South)」を意味しており、特にMason-Dixonライン南部に対して使われました。

Mason-Dixonラインはアメリカの南北戦争前に奴隷制存続派(南)と廃止派(北)を分けるために作られた境界です。


画像:wikipedia「Mason-Dixon line」より(https://en.wikipedia.org/wiki/Mason%E2%80%93Dixon_line)

この「ディキシーランド」は、包括的でポリフォニックな即興演奏を行なう初期のブラスバンドマーチやフレンチ・クアドリル(French Quadrills)、ビギン、ラグタイムブルースを含んでいます。

フレンチ・クアドリル

French Quadrille (Sixdrille from Lowe), part 1

ビギン

Hot from Martinique (1930) - Alexandre Stellio: NINON
"La Rue Zabyme" by Sam Castandet et son Orchestre Antillais (Martiniquan traditional)

ラグタイム

The Entertainer
Maple Leaf Rag

ブルース

Robert Johnson - Me And The Devil Blues With Lyrics
Blind Willie Johnson - John the Revelator
Crazy Blues

当時の人々の演奏スタイル

1930年代から1940年代の間は、初期のグループ即興演奏のスタイルは若い黒人のプレイヤー達には支持されなくなる一方、一部の年配のプレイヤーたちには人種問わず支持されていました。

若いミュージシャン達は新しいスタイルを開発していたものの、多くのビーバッププレイヤーたちはLouis Armstrongを崇拝しており、自身の即興に彼の音楽の要素を取り入れたりしていました。

Louis Armstrong "Dinah" 1933

ディキシーランドのリバイバル

1940年代終わりから1950年代にかけて起きたディキシーランドのリバイバルは、その卓越した即興で有名になり、「最初のステレオレコード」として歴史上に名を刻んだ「Dukes of Dixieland」によって始まりました。

THE DUKES OF DIXIELAND

このムーブメントは多くのセミ・リタイアしたミュージシャンたちに名声をもたらしただけではなく、長年プレイしていなかったジャズの世界でまた演奏するきっかけを与えることにもなりました。

Kid OryやRed Nicholsも、この一人です。

Kid Ory's Creole Jazz Band - Tin Roof Blues
Red Nichols & His Five Pennies - 1950

Progressive Dixielandの誕生

このリバイバル時代の多くのディキシーランドのグループは、昔活躍したバンドをマネて演奏していました。

しかし、他のミュージシャンの中には新しいサウンドやパフォーマンスを作っていく人もいました。

たとえば1950年代の「Progressive Dixieland」は、ディキシーランドにビーバップスタイルのリズムを取り入れたポリフォニックな即興演奏が特徴です。

そのため、「Dixie-bop(ディキシー・バップ)」と呼ばれることもありました。

このスタイルでは、Spike Jones & His New BandやSteve Lacyなどが人気です。

Spike Jones' New Band
Steve Lacy (at 20 years old) "Let's Get Away from It All"
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シカゴジャズ

ディキシーランドにおける「シカゴスタイル」は、Jimmy McPartlandやEddie Condon、Muggsy Spanier、Bud Freemanなどのシカゴ出身・シカゴ人のミュージシャンの音楽を指します。

リズムセクションであえるストリングベース(コントラバス)はチューバに、ギターはバンジョーに置き換わっていることがあるのが特徴です。

Third Street Blues
Eddie Condon sings Nobody's Sweetheart -1929
Chicago
Beale Street Blues

ニューオリンズのプレイヤーとシカゴのプレイヤーの違い

ディキシーランドジャズにおけるシカゴのプレイヤーとニューオリンズのプレイヤーには、それぞれ異なる傾向があります。

シカゴ

・1拍目と3拍目にアクセントを置く2ビートスタイル

・ソロが多め

・使う楽器が少なめ

・チューバの代わりにコントラバス、バンジョーの代わりにギターを使う

・速めのテンポ

ニューオリンズ

・各拍すべてにアクセントを置く

・ソロは少なめで、アンサンブル重視

・持ち運びしやすい楽器を使う

・マーチングの影響を受けている

・遅めのテンポ

シカゴディキシーランド

The Albatros
Eddie Condon And His All Stars - Riverboat Shuffle
Trumbology
Clarinet Marmalade
S.O.L. Blues

ニューオリンズディキシーランド

Original Dixieland Jass Band - Livery Stable Blues (1917)
The Crave - Jelly Roll Morton
Original Dixieland Jazz Band - Jazz me Blues (1921)

シカゴスタイルのディキシーランドは、ディキシーランドの起源である南部の生活とは異なり、「都会の忙しさ」に似ている部分があります。
(ちなみにシカゴはアメリカの右上にあります)

またシカゴスタイルのバンドは、よりバラエティに富んだスタイルの楽興を演奏するのも特徴の一つです。


以上でディキシーランドの解説は終了です。

当サイトでは他にもジャズ系の音楽ジャンルについて解説していますので、ぜひこちらもご覧ください↓


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