音楽ジャンル解説

【音楽ジャンル】スピリチュアルとは?【歴史編】

今回は英語版wikipediaの「スピリチュアル」をまとめました。

この記事ではPart2として、スピリチュアルの歴史についてご紹介します。

前編はコチラ

おそらくほとんどの人が「スピリチュアル」と聞くと「占い」「タロット」などのイメージを持つと思いますが、実はそれとは関係なく、音楽ジャンルとして「スピリチュアル」というものがあります。

あまり知られていない音楽ですが、アメリカにおける奴隷制度と非常に強く結びつきがあり、のちの音楽の発展に非常に重要な役割を果たした音楽ですので、ぜひこの機会に理解を深めてみてください。

音楽は「こっそり」しなければならなかった

https://blackmusicscholar.com/the-symbolism-behind-negro-spirituals/

1960年代から1985年までの間、黒人の人々はアフリカからアメリカに移り、奴隷としての生活を強いられるようになります。

この黒人奴隷の人々は、アメリカに来ると同時に西アフリカの伝統もアメリカにもたらします。

この「アメリカにもたらしたもの」の中には、アフリカにおける仕事や礼拝の文化だけでなく、ダンスや音楽に関係しているものもありました。

しかし、ヨーロッパ人の主人(奴隷を扱っている人)たちは、このような太鼓やダンスなどのアフリカ由来の崇拝形態を「偶像崇拝だ」とみなしていたため、この多くを禁止してしまいます。

はじめは太鼓もアフリカにいた時と同じように使いつつ、コミュニケーションや抗議のためにも使っていました。

しかし太鼓の使用も禁止されてしまったため、奴隷にされた人々は、彼らの主人たちに見つからないよう、こっそりと音楽をしなければいけなくなりました。

Field Hollers(フィールド・ホラー)

フィールド・ホラーは「Levee Camp Holler music」という名前でも知られているアフリカ系アメリカ人音楽の前身で、19世紀に誕生しています。

Alan Lomax Recordings- Levee Camp Holler
Rosie and Levee Camp Holler

これはのちのブルース、スピリチュアル、リズムアンドブルースの基礎を築いています。

奴隷にされた人々の叫びや嘆き、綿畑で働く小作人、刑務所で鎖で繋がれた囚人たち、レールウェイギャングなどは、アフリカンアメリカンスピリチュアルやゴスペルに見られる「コールアンドレスポンス」の先駆けと言われています。

「コールアンドレスポンス」は、誰か1人が歌った後、それに続いてみんなが歌うスタイルのことです。

"Angels" - A Call and Response Hymn

これらは、ジャグ・バンドやストライドピアノ、そしてブルース、リズムアンドブルース、ジャズなど、一般的に言う「アフリカ系アメリカ人音楽」にも多く見られるようになります。

スピリチュアルにある要素は「相互作用」から来ている

https://www.aaihs.org/literacy-history-and-african-american-spirituals/

スピリチュアルにあるリズムや音の要素の多くはアフリカが起源ではあるものの、この音楽自体はアフリカ系アメリカ人とその子孫たちの、アメリカ国内での宗教的体験から来ているものです。

ヨーロッパ起源の宗教・音楽と、アフリカ起源の宗教・音楽が互いに影響し合い、このような音楽になりました。

ちなみに、この2つの相互作用はアメリカでしか起きていません。

他の国や地域では、カリブやラテンアメリカなどでさえも、キリスト教に改宗した人たちがこのような進化を遂げることはありませんでした。

奴隷制度と改宗

https://blackmusicscholar.com/the-symbolism-behind-negro-spirituals/

スピリチュアルは主に宗教的信仰を表現した音楽で、アメリカで奴隷にされたアフリカ人の間で始まりました。

奴隷の人たちは母国語を話すことを禁じられており、基本的にキリスト教へ改宗させられていました。
(自ら改宗した人もいましたが、改宗することでメリットがあったからという理由も考えられます)

そのため、彼らの少ないボキャブラリーを駆使して、彼らが知っている聖書の内容や事実を音楽に使っていきました。

黒人奴隷たちが唯一感情を表現できる場所

https://aaregistry.org/story/coming-home-the-black-spiritual/

一部の地域では、奴隷にされたアフリカ人が「祈りの会」を開くことを許可・推奨されていました。

彼らにとって、(特に精神的に)意味のある「自分自身を表現する場」がなかったためです。

このような礼拝・宗教的な集会は、奴隷にされた人々にとって唯一合法的に集まり、交流し、安心して感情を表現できる場所だったのです。

この集会や礼拝の際、崇拝者は歌い、踊り、時には有頂天になることもありました。

シャウト(Shauts)

またスピリチュアルとともに、シャウト(Shauts)も礼拝所や教会で誕生しました。

シャウトはシャッフルビート(タッタ・タッタ・タッタ・タッタ)を足踏みで刻み、クラップ(手を叩く)を交えて行われる音楽です。
(ちなみに教会内で脚をクロスするという行為は禁止されていたので、これを避けながら足踏みしていました)

McIntosh County Shouters: Gullah-Geechee Ring Shout from Georgia

アフリカ人奴隷がアメリカにもたらしたもの

奴隷にされた人々は、ボーンズ、ボディーパーカッション、バニア、バンジュー、バンジャーラなどのバンジョーの前身である楽器(ただしフレットはない)をアメリカに導入します。

そして、アフリカのリズムと先祖代々伝わった要素を使い、演奏していました。

ボーンズ(Bones)

How to Play Bones with Dom Flemons

バニア(Bania)

BANIA - Rassoul Allah - Diwan#1

また、彼らはアフリカの読み聞かせ(ストーリーテリング、Story Telling)を重要視した、長年続く宗教的伝統もアメリカにもたらします。

音楽は、コミュニケーションや社会的習慣、民族の歴史を共有する過程において非常に重要なものとして考えられていました。

スピリチュアルの主な機能として「宗教的な集まりで一緒に歌うもの」がありましたが、西アフリカの伝統的な宗教を思い起こさせる「コール・レスポンスパターン」を使うというのもそのうちの一つでした。

アフリカンアメリカンスピリチュアルは、白人アメリカ人への社会的抗議としての意味もあったかもしれません。

今も、アフリカの伝統が生きている

現在も、アフリカをルーツとする伝統が見られます。

例えば「コールアンドレスポンス」は、話し手が間隔を置いて話し、説法中に会衆が継続的に反応する(レスポンスする)というものです。

"Angels" - A Call and Response Hymn

スピリチュアルでは、曲の途中で説教者(Preacher)が声をピンと張って独特の音色を生み出す「ストレイニング・プリーチャー(Straining Preacher)」という手法も誕生しました。

ストレイニング・プリーチャーの例(25:30~)

Bishop G.E. Patterson "Your Day Will Come"

これは、スピリチュアルやブルース、ジャズで使われています。


以上で音楽ジャンル「スピリチュアル」の解説は終了です。

当サイトでは他にもスピリチュアルに関係する音楽ジャンルについてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓

Part1はこちら↓


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