【DTM・オーディオ】真空管(チューブ)とは?なぜいい音になる?

【DTM・オーディオ】真空管(チューブ)とは?なぜいい音になる?

今回は「音楽・オーディオにおける真空管(Vacuum Tubes)とは何か?」をまとめました。

音楽やオーディオ関連の機材について調べていると、「真空管」「チューブ」などの単語に出会うことがあります。

そして「これは真空管だから音がいい」「チューブならではのサウンドが良くて…」など、「真空管=何だかいいモノ」のような会話を耳にすることもあるでしょう。

そこで今回は、音楽における「真空管(チューブ)」とは何か、なぜ「真空管らしい温かみのある音」が出るのか、その特徴について解説します。

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真空管(Vacuum Tube)とは?

真空管(Vacuum Tube)とは、中身が真空で電極を入れた管型の電子パーツのことです。
※英語でVacuumeは「真空」、Tubeは「管」という意味で、バルブ(Valve)と呼ばれることもあります。

見た目は細長い電球のような形をしており、ガラス管の中に電極などが入っていて、電気を通すと赤っぽく光るのが特徴です。

昔の音楽関連の機材によく使われていて、「チューブアンプ」「チューブコンプレッサー」など、「チューブ」という名前が付いている製品は真空管が使われています。

特に、音楽では信号を増幅させる「アンプ」としての役割を持ったパーツとして使われることが多いです。

昔から愛され続ける「真空管サウンド」

音楽関連の機材を見ていると、「真空管アンプ」「バルブアンプ」などの単語を目にすることがあるでしょう。

エレキギターやエレキベースに使うアンプだけでなく、真空管はさまざまな機材に使われているパーツです。

1960年ごろまでは真空管を使った機材が多く使われていましたが、この頃になるとソリッドステート(Solid State)やトランジスタを使った機材が誕生し、徐々に置き換わっていきました。

これらは真空管よりもコンパクトである上に、安価で生産でき、壊れにくかったからです。

しかし、その後も真空管アンプを使ったときの特有のサウンドは人々から愛され続けていきます。

それでは、この「真空管ならではのサウンド」はどうやって作られているのでしょうか?

真空管の仕組みとは?

真空管は、完全に密閉&空気がない状態でないと動作しません。
(それゆえに「真空」という言葉が使われています)

そのため、電球のようにガラス管の中にパーツを入れています。

実際に「真空管」と検索して出てくるアイテムは、どれも電球のような見た目をしています。

それでは、この真空管の中に入っているパーツを見てみましょう。

By Svjo – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26997396

真空管は基本的に「ヒーター」「カソード」「グリッド」「アノード(プレート)」の4つのパーツでできています。

ヒーターとカソードが合体した「フィラメント」というパーツが使われることもあります。

https://www.youtube.com/watch?v=kRSiTog2-No

左の画像は横から見た図、右の画像は真上から見たときの回路図です。

ヒーター:カソードを加熱するパーツ
カソード:高温になると真空中に電子を放出する働きのあるパーツ
グリッド:カソードやフィラメントで作り出された電子のうち、一定量がプレートを通過するのを防ぐパーツ
プレート(アノード):電子を集める場所

フィラメント:ヒーター同様にそれ自身が加熱し、カソードのように電子も放出するパーツ(ヒーターとカソードの1人2役)

中心にヒーター(バネのようになっている部分)があり、その周りにカソード、その周りにグリッド、その周りにアノード(プレート)があります。

ダイオード(二極真空管)とトライオード(三極真空管)の違い

よく使われる真空管には2つの種類があり、「ダイオード」と「トライオード」があります。

ダイオード(Diode):二極真空管(二極管)
トライオード(Triode):三極真空管(三極管)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Diode

ダイオードは、ヒーター(フィラメント)、カソード、アノード(プレート)の3つで構成されています。

信号の増幅に使う電極が「カソード」と「アノード(プレート)」の2つなので「二極管」と呼ばれています。

「発光ダイオード(LED)」などでこの言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。

By Svjo – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26997396

トライオードは、フィラメント(ヒーター)、カソード、アノード(プレート)、グリッドの4つで構成されています。

信号の増幅に使う電極が「カソード」「アノード(プレート)」「グリッド」の3つなので「三極管」と呼ばれています。

つまり、ダイオードとトライオードは「グリッドがあるかないか」が大きな違いになります。

グリッドがあることでアノードへ流れる電子の量を調整できるため、信号を増幅することができます。
※グリッドが1個の場合は「三極管」と呼ばれますが、2個以上ある場合は「多極管」と呼ばれます

真空管の中で起きていること

真空管に電気を流すと、まずヒーター(もしくはフィラメント、中心の赤いバネ)が加熱されます。

https://www.youtube.com/watch?v=K6BgZ8s1Vuw

そしてこのヒーターがカソードを熱し、カソードが高温に達すると、電子(マイナス、陰極性)が発生します。
※カソードではなくフィラメントが使われる場合は、フィラメント自体が熱を帯び、熱電子を放出します。

https://www.youtube.com/watch?v=K6BgZ8s1Vuw

カソード(もしくはフィラメント)から発生した熱電子は、アノード(プレート)に向かっていきます。

マイナスの電荷を持つ電子は、プラス(陽極・正極)に向かって流れる性質があります。

アノード(プレート)は陽極性なので、アノード側に正電圧を加えると電子はアノードに向かって動きます。

https://www.youtube.com/watch?v=kRSiTog2-No

電子がアノードへ向かうとき、グリッドがないと発生した電子がすべてそのままアノードに向かっていきます。

https://www.youtube.com/watch?v=kRSiTog2-No

しかし、グリッドがあれば流れる電子の量を調整することができます。

水道の蛇口のように、水の流れを止めたり、少しだけ放流したり、大量の放流するような調整をしています。
※このように蛇口のような仕組みを使っていることから、真空管は「バルブ(valve)」とも呼ばれています

このグリッドの「開け閉め」の動きを調整するのが、アナログ信号です。

この「アナログ信号」とは、例えばエレキギターやエレキベースのアナログ信号などです。

https://www.youtube.com/watch?v=kRSiTog2-No

アナログ信号は波形がプラスとマイナスを行き来するような電気信号で、この信号の動きに合わせてグリッドが動くようになっています。
※中央の横線がプラスマイナスゼロの線で、波はその中央線よりも上(プラス)と下(マイナス)を行ったり来たりしている

https://www.youtube.com/watch?v=kRSiTog2-No

このグリッドの開き具合によってアノードへ行く電子の量を増やしたり減らしたりできるため、エレキギターなどから受け取ったアナログ信号を増幅させることができます。

ここで注意していただきたいのが、真空管では「受け取ったアナログ信号をそのまま増幅しているわけではない」という点です。

受け取ったアナログ信号は、あくまでもグリッドの開け閉めを調整するトリガー(合図)として使われます。

実際はカソード(フィラメント)から発された電子が「増幅された信号」になりますので、元の信号をそのまま大きくしているわけではありません。

あくまでも、電子の動きによって元の信号をコピー(再現)し、それを大きくして増幅させたように見せています。

真空管で使われている技術は「熱電子放出(エジソン効果)」

https://www.schoolphysics.co.uk/age14-16/Atomic%20physics/text/Thermionic_diode/index.html
「電球の中に電極を入れ、電極と電球のフィラメントの間に電圧を加えると、正の電圧(+)を加えた場合は電流が流れ、負の電圧(-)を加えた場合は電流が流れない」

これはエジソンが発見した現象で、真空管はこの原理を応用して作られています。

真空管の動きを動画で見てみよう

How Vacuum Tubes Work

こちらの動画では、真空管のしくみをわかりやすく映像化しています。

https://youtu.be/nA_tgIygvNo?si=TwnSe4Q-4GSL9IZW

こちらの画像は、二極真空管の画像です。

一番下にあるカソードが高温になることで、電子(白いチリのような物体)がプレートに向かって動く様子がわかります。
※電子は、実際には目に見えません

電子は陰極性(-)でプレートは陽極性(+)のため、電子はプレートに向かってくっついていきます。

この画像の場合はグリッドがないので、カソードから発生した電子がそのままプレートに集まっています。

https://youtu.be/nA_tgIygvNo?si=TwnSe4Q-4GSL9IZW

こちらの画像は、グリッドがある三極真空管です。

中央にある波線のような物体がグリッドで、左からギターの電気信号が送られています。

https://youtu.be/nA_tgIygvNo?si=TwnSe4Q-4GSL9IZW

ギターのアナログ信号に合わせてグリッドが動き、電子をどれだけ通すか、その量を調整しています。

プレートに集まった電子は、「増幅された信号」としてOUTPUT(出力)を通っていきます。

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なぜ真空管だと「太くて丸くて温かみのある音」が出る?

真空管を使った製品から出た音の例えとして、よく使われるのが「温かみのあるサウンド」「太くて丸みのある音」という言葉です。

この「温かみ」「太さ」「丸み」は、真空管の高いインピーダンス(電気抵抗)により、独特のディストーション(オーバードライブ、歪み)がかかることによって発生します。
※インピーダンスが高いと効率的に電力を送ることができますが、ノイズを拾いやすいというデメリットがあります

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真空管を使ったときに起こる音の変化として、具体的には主に以下4つが挙げられます。

・偶数倍音が発生する
トランジスタを使ったアンプでは奇数倍音が発生するのに対し、真空管では偶数倍音が発生します。
奇数倍音は尖ったような音になりますが、偶数倍音ではやわらかい音になりやすい傾向にあります。

・高音域が減る
真空管を使って信号を増幅すると、高音域が減るので音にキツさがなくなり、やわらかく丸みのある音になりやすい傾向にあります。

・コンプレッションがかかったような音になる
真空管を使って信号を増幅すると、サチュレーション(歪み)がかかってコンプレッションされたような音になります(ダイナミクスレンジが小さくなります)。
これにより、トランジェント(アタック)の角が取れたような音になるので「丸い音」と感じやすくなります。

・繊細かつダイナミックな、臨場感のあるサウンドになる
真空管アンプは基本的にインピーダンスが高いため、インピーダンスマッチングが必要になりますが、これが適切に行えていれば細かい演奏のニュアンスも聞こえる臨場感のあるサウンドになります。

これらが「真空管ならではの温かみ」や「チューブサウンド」「いい音」などと呼ばれる理由です。

ざっくりとした形で言えば、トランジスタアンプを使った音は角ばったスクウェア波のような波形になりますが、真空管アンプを使った音はサイン波のような丸い波形になるようなイメージです。

https://pssdistributors.com.au/what-is-the-difference-between-square-wave-and-pure-sine-wave-inverters/

手軽に真空管サウンドを楽しむプラグインも開発されている

真空管は現代ではあまり使われなくなった技術ではあるものの、このサウンドは今でも多くの人に愛されています。

特にヴィンテージの機材は真空管を利用していることがありますが、非常に値段が高いので手に届かないこともあります。

このような場合でも、この真空管サウンドをエミュレートしたプラグインであれば、誰でも手軽に「真空管サウンド」を楽しむことができます。

https://www.pluginboutique.com/product/81-Bundles/58-Instrument-Bundles/12714-KORG-Collection-5

例えばDAWで使用できるKORGのバンドル「KORG Collection」に収録されている「TRITON Extreme」では、当時のアナログサウンドを使うことができます。

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「真空管」「ネオン管」「ニキシー管」の違いは?

真空管とよく似た見た目をしているのが「ネオン管」「ニキシー管」です。

どれも「ガラスの瓶に入っていて、中で強く光る」という点が共通しています。

Amazonなどで検索すると、この美しい見た目を利用したインテリアグッズなども販売されています。


それでは、これらの違いは何でしょうか?

真空管
中身が「真空=空気がない状態」
複数の電極の間を電子が動き、その電子の動きで電気(信号)が流れる
ネオン管
中身がネオンガスなどの「貴ガス」
中にある電極に電気が流れると、電極と周囲のガスが化学反応を起こして光る
(電極自体が光るわけではない)
ニキシー管
ネオン管のうち、数字や記号、文字を表示するのに特化したもの

ニキシー管の歴史

ニキシー管はあらゆる文字の表示に対応するため、たくさんの電極(陰極と陽極)を中に入れて文字を表示しています。

そのため、電卓や時計、エレベーターの階数表示などによく使われていました。

しかしニキシー管は170Vほどの高い電圧を必要とするため、低電圧が必須条件である集積回路を使った製品(携帯電話など)にはあまり向いておらず、特許料も高額であったため、1990年までには全世界で生産が終了しました。

このニキシー管の代わりに使われるようになったのが「7セグメントディスプレイ」で、電卓やタイマーなど、あらゆる場面で使われています。

真空管(チューブ)関連アイテム

最後に、真空管関連アイテムをご紹介します。

今回の解説で真空管に興味を持った方は、ぜひチェックしてみてください。

真空管アンプ

MARSHALL ( マーシャル ) / DSL100H ギターアンプヘッド(サウンドハウス)

MARSHALL ( マーシャル ) / DSL100H ギターアンプヘッド(サウンドハウス)

FENDER ( フェンダー ) / '68 Custom Vibro Champ Reverb(サウンドハウス)

FENDER ( フェンダー ) / ’68 Custom Vibro Champ Reverb(サウンドハウス)

UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ ) / 710 TWIN-FINITY(サウンドハウス)

UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ ) / 710 TWIN-FINITY(サウンドハウス)

真空管サウンドが得られるプラグイン(DTMをやっている人向け)

ここでは、DTMで使える真空管サウンドが得られるプラグインをご紹介します。

Fabfilter社「Saturn」

世界中のユーザーから愛されているディストーション・サチュレーションプラグインで、「Tube」というタイプのディストーションを選ぶことができます。

Fabfilter社「Saturn 2」を購入する(サウンドハウス)

Waves社「CLA Classic Compressors」

エンジニアの巨匠・Chris Lord-Algeが開発に携わったコンプレッサーバンドルです。
特に真空管コンプレッサーとして今でも人気の高い「LA-2A」をエミュレートした「CLA-2A」は、世界中のプロから高い評価を受けているプラグインです。

Waves社「CLA Classic Compressors」を購入する(サウンドハウス)

Waves社「CLA Classic Compressors」を購入する(サウンドハウス)

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ニキシー管系インテリア



真空管や真空管の自作に関する書籍

真空管や真空管の自作に興味がある方には、こちらの書籍がおすすめです。



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真空管の仕組み&温かみのある音が出る理由まとめ

以上が「真空管の仕組み」と「温かみのある音が出る理由」でした。

真空管とは?
真空になったガラス管の中に複数の電極を入れ、その電極の間で電子を発生させることで電気を作る
真空管で使われるパーツは?
「ヒーター」「カソード」「プレート(アノード)」「グリッド」
※ヒーターとカソードが合体した「フィラメント」が使われることもある
ダイオード(二極真空管)はグリッドがなく、トライオード(三極真空管)はグリッドがある
真空管の「温かみのある音」ができる理由
偶数倍音により、トランジェントの角が取れ、高音域が減るため
真空管が「レコード」、トランジスタが「CD」のようなイメージ
なぜ現代ではあまり見なくなった?
生産コストの高さや管理のしにくさ、特許料の高さから、1990年代にはトランジスタやソリッドステートに置き換えられてしまった

当サイトでは他にも音楽・オーディオに関する用語をまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓

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