ノイズキャンセリングヘッドホン(イヤホン)を使うと、なぜ雑音が聞こえなくなるの?
- 2020.05.25
- 2020.12.31
- ソフト・プラグイン・機材
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今回はこのような疑問にお答えする内容です。
How do noise-cancelling headphones work? | The science behind active noise cancellation
集中したい時やぐっすり寝たい時、雑音をシャットアウトするためにノイズキャンセリング機能のあるイヤホン・ヘッドホンを使っている方も多いでしょう。
今回は、どうしてこのようなはたらきをするのか、解説していきます。
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パッシブ・ノイズキャンセリング(PNC)
厳密に言うと、実はすべてのヘッドホンには「パッシブ・ノイズキャンセリング」の機能が備わっています。
これは、ヘッドホンが耳全体を覆ったとき、本来は鼓膜まで行き届くはずだった外部からの空気の振動(人間の脳が「これはノイズだ」と判断するもの)を物理的にシャットアウトするという現象のことです。
たとえば、綿棒を耳の穴に入れるといった本当にシンプルな動作であっても「パッシブ・ノイズキャンセリング」していることになります。
アクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)
一方、ノイズキャンセリングヘッドホンにおいては「アクティブ・ノイズキャンセリング」の機能が使われています。
このANCを理解するために、まずは「そもそもノイズとは何なのか?」について考えてみましょう。
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そもそもノイズって、何?
みなさんがヘッドホンを使って聞きたい信号(音)は、ヘッドホンなどの音源(音が出る場所)から出たものです。
そして「ノイズ」は、「音の信号を捉える」という人間の能力を妨げる可能性がある、外部から聞こえてくる音のことを指します。
波形と打ち消し
ここで、音に関する基本的な概念について考えてみましょう。
音とは「圧力波」です。
音の波形(waveform)を見てみると、空気が圧縮されたり、希薄化していることがわかります。
画像: 2つの全く同じ波形(https://youtu.be/_N0ER4A73QE)
たとえば上記の画像のように2つの全く同じ波形を同時に鳴らすと、2つの波形を鳴らしたのにも関わらず1つの音に聞こえ、さらには音が大きく聞こえます。
画像: 2つの全く同じ波形のうち、片方を逆にして合体させると…(https://youtu.be/_N0ER4A73QE)
ここで片方の位相(フェーズ、Phase)を180度逆にしてみましょう。
こうすると、なんと音が全く聞こえなくなるのです!
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位相の打ち消し
実は、全く同じ波形+逆位相の波形を同時に鳴らすと互いに音を打ち消し合い、音が聞こえなくなります。
180度逆=完璧に逆なので、例えば+5dB鳴っている場所だったら、片方は-5dBになります。
つまり、プラスマイナスゼロになってしまうわけですね。
2つの信号が完璧に打ち消し合うと「位相の打ち消し(フェーズキャンセル)」が起きます。
これは多くのオーディオエンジニアリングの世界で重要視されているテクニックの1つとして、広く使われています。
…では、この「位相の打ち消し」とヘッドホンは、どう関係があるのでしょうか?
ヘッドホンと位相の打ち消し
実は、アクティブ・ノイズキャンセリング機能がついたヘッドホンは、内部にマイクが内臓されています。
(そのため、厳密に言えば「ヘッドセット」と言えます)
そしてここで、先ほど紹介した「位相の打ち消し」を使います。
マイクが拾ってきたノイズを逆位相にし、それを再生することで、リスナーの耳に届くノイズを減らしていくのです!
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ノイズキャンセリングの限界
とはいえ、アクティブ・ノイズキャンセリングは、必ずしも完璧ではありません。
たとえば頻繁に不要なノイズが増えたり減ったりすると、ノイズを分析・予測するのが難しくなるので、ノイズキャンセリング効果は少し期待できなくなります。
つまり、アクティブ・ノイズキャンセリングは、飛行機のハムノイズに含まれる低音域のような、周期的に繰り返されるノイズを除去するのにはかなり使える機能だということになります。
音楽制作にノイズキャンセリングヘッドホンは使える?
ノイズキャンセリングヘッドホンは、みなさんの音楽スタジオにあるスピーカーなどよりも快適に音が聞けると思っている方もいるかもしれません。
しかし、必ずしもこれがベストなアイデアとは言えません…
前述の通り、アクティブ・ノイズキャンセリングとは、ヘッドホンから出てくる音(内部信号)にある種の変更を加えるものです。
そのため、細部までしっかり聞く必要のあるミキシングやマスタリングなどには使わない方がよいと言えます。
コストの問題
コンシューマーオーディオの世界では、アクティブ・ノイズキャンセリングにかかる「コスト」も、もう一つの「限界」です。
ヘッドホンは小さいので、すごく小さなマイクを使わないといけません。
それにプラスして、パワフルなDSPチップ、そしてより正確にノイズを分析するためのアルゴリズムを開発・埋め込みするとなると…ものすごくコストがかかります。
特に、パッシブ・ノイズキャンセリングに比べると、かなり高価になることがわかるでしょう。
どんなヘッドホンを買えばいい?
もし比較的静かな場所で音楽制作をしていたり、ノイズキャンセリングヘッドホンをスタジオの機材として使いたい・買ってみたいと思っているのであれば、サーカムオーラル(耳覆い型)ヘッドホンではなく、オープンバックもしくはセミ・オープンバックのヘッドホンをおすすめします。
オープン型ヘッドホンの例
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