アレンジ・打ち込み

クラリネットのBb管とA管の違いとは?【作曲・オーケストレーション】

今回は、OrchestrationOnlineが解説する「クラリネットのBb管とA管の違い」をまとめました。

管楽器には「移調楽器」と呼ばれるものがあり、楽譜上の「ドレミファソラシド」の音がそれぞれ異なります。

例えばBb管の「ドレミファソラシド」は「Bb,C,D,Eb,F,G,A,Bb」ですが、A管は「A,B,C#,D,E,F#,G#,A」になります。

なぜ同じ楽器なのに違うバージョンを作るのでしょうか?
「BbとA」でたったの半音2個分しか違わないのに、違いは出るのでしょうか?
作曲(オーケストレーション)のときはどのように使い分ければよいのでしょうか?

これらの疑問について、ここからじっくり解説していきます。

Orchestration Tip: B-flat Clarinet vs. A Clarinet

クラリネットのBb管とA管の主な違い

はじめにクラリネットのBb管とA管の違いをまとめると、以下の項目が挙げられます。

○使われ方の違い
・Bb管の方が一般的によく使われる
・A管はシャープが2~6個付いているときや、A管が指定されているときに使われる
○トーン(音色)の違い
・Bb管の方が暗く重みのある豊かな音が得意
・A管の方が明るく軽快で鋭い音が得意

それではここからは、具体的にBb管とA管の違いについて解説していきます。

クラリネットのBb管とA管の使い分けで重要なのは「楽曲のキー(調)」

クラリネットのBb管とA管の使い分けで最も重要な事柄の1つは、楽曲のキー(調)です。

Aクラリネットの「ドレミファソラシド」は、そのままAメジャーキーと同じ「A,B,C#,D,E,F#,G#,A」になります。

そのため、シャープ系の楽譜ではAクラリネットを使った方が運指が楽になります。

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

例えば上記の楽譜は、元々Aメジャーキーで作られた楽曲を、A管で演奏するときとBb管で演奏するときに分けたものです。

左側がA管で演奏するときの楽譜ですが、元々Aメジャーキーの楽曲ですので、演奏者はそのまま演奏すればOKです。

一方、右側の楽譜がBb管で演奏するときの楽譜です。

Bb管の「ドレミファソラシド」はBbメジャーキーと同じ「Bb,C,D,Eb,F,G,A,Bb」ですので、Aメジャーキーの楽曲を演奏するときはシャープを4つ付けないと同じ音になりません。

しかし、シャープが4つ付いていると運指も複雑になりますので、非常に演奏しにくいです。

作曲やオーケストレーションをするときに考えるべきこと

このように、移調楽器を使う場合はそれぞれの運指や演奏のしやすさを考慮する必要があります。

このときに役立つのが、五度圏(サークル・オブ・フィフス)を使う方法です。

五度圏とは、時計回りに1つズレるたびにスケールのスタート音が5度上がるようになっている表のことです。

https://www.musicca.com/circle-of-fifths

例えば2時の方向にDメジャーキー(平行調はBマイナーキー)がある場合、1つ右にズレて3時の方向にはAメジャーキー(平行調はF#マイナーキー)があります。

「五度圏」という名前の通り、DとAは音程で言うと5度離れています。

このように5度ずつ移動していくと、ピッタリ最初のキー(調)に戻って一周します。
※ちなみに左に移動すると4度ずつ下がるようになっています

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

こちらは一番外側に通常の五度圏が並び(黒文字)、内側にクラリネット用の楽譜にした時のフラットとシャープにした五度圏を並べているものです。

この五度圏を使うと、おおよそ右半分はA管が得意な調(キー)、左半分はBb管が得意な調(キー)になります。

例えばCメジャーキーの楽曲を演奏するとき、Bb管ではシャープを2つ付けた楽譜になります。

同様に、Dメジャーキーの楽曲を楽曲を演奏するときは、E管ではフラットを1つ付けた楽譜になります。

「フラットとシャープの数がより少ない方が演奏しやすい」と言えるので、それぞれの得意な調・キーは以下のようになります。

Bb管が得意な調・キー(8つ)

・Aメジャーキー(F#マイナーキー)
・Cメジャーキー(Bbマイナーキー)
・Fメジャーキー(Eマイナーキー)
・Bbメジャーキー(Cマイナーキー)
・Fメジャーキー(Dマイナーキー)
・Bbメジャーキー(Fマイナーキー)
・Ebメジャーキー(Cマイナーキー)
・Abメジャーキー(Fマイナーキー)

A管が得意な調・キー(6つ)

・Bbメジャーキー(F#マイナーキー)
・Fメジャーキー(Bbマイナーキー)
・Cメジャーキー(Eマイナーキー)
・Gメジャーキー(Dマイナーキー)
・Dメジャーキー(Fマイナーキー)
・Aメジャーキー(Cマイナーキー)

Bb管とA管のどちらを使うか判断する例

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

例えばGメジャーキー(シャープ1個)の楽曲の場合、A管はシャープを2つ減らす(フラットを2個付ける)だけで済みますが、Bb管がシャープを3つ付ける必要があります。

また、Dメジャーキー(シャープ2個)の楽曲の場合、A管はシャープを1つ減らす(フラットを1個付ける)だけで済みますが、Bb管はシャープを4つも付ける必要があります。

もし曲中にGメジャーキーからDメジャーキーに変わるような楽曲であれば、Bb管だと少し複雑になってしまいます。

そのため、このような楽曲の場合はA管を使った方がよいでしょう。

逆にGメジャーキーからCメジャーキーに変わる場合は、Bb管の方が簡単になるので、Bb管を使った方がよいでしょう。

それでは、Gbメジャーキー(フラット6個)もしくはF#メジャーキー(フラット6個)の場合はどうでしょうか?

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

GbメジャーキーとF#メジャーキーは、名前は違いますが使う音は同じです(F#,G#,Ab,B,D#,E#,F)。

Bb管とA管を使い分ける場合は、多少ではありますがそれぞれフラットとシャープの数が異なり、Bb管ではフラットが4つになり、A管ではシャープが3つになります。

このため、もし楽曲中にフラットが増えるキーに変わった場合はBb管の方が、シャープが増えるキーに変わった場合はA管を使う方がよいでしょう。

さまざまなクラリネットの種類

クラリネットにはいくつか種類があり、よく使われるのは以下の4つです。

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

・バスクラリネット(Bb管)
・A管クラリネット
・Bb管クラリネット
・Eb管クラリネット
※上から順に本体サイズが大きい

19世紀後半から20世紀前半ごろはA管バスクラリネットもありましたが、今では基本的にBb管で作られています。

そのため、実際に演奏するときにシャープやフラットが5~6個付いてしまうような楽曲を作るのは避けた方がいいでしょう。

同様に、小柄なEb管クラリネットはD管クラリネットに置き換えられることがありますが、場合によっては移調するときにフラットやシャープの個数が多くなることがあります。

「Pte Cl.」は「小クラリネット」という意味

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

ちなみにこちらの楽譜には「Pte Cl.」と書かれていますが、これは「Petite Clarinet」の略で、フランス語で「小クラリネット」を指す言葉です。

小クラリネットにはE管クラリネット、Eb管クラリネット、D管クラリネット、F管クラリネット、Ab管クラリネットなどがあります。
(一部の音楽ではG管クラリネットも使われ、高いG管と低いG管があります)

Wikipedia「クラリネットファミリー」: Dietz Klar inettenbau , bearbeitet von / edited by Gisbert König - This file was derived from: Dietz 9 Klarinetten.jpg

どれも甲高く鋭い音色が特徴のため、やさしく丸く深みのあるトーンは苦手ですが、トランペットなどの金管楽器にも対抗できる華やかさや明るさがあります。

Bb管クラリネットにおすすめのシーン

Bb管クラリネットは最もよく使われるタイプで、以下のようなシーンであればBb管の方がよいでしょう。

・フラットやシャープがついてない楽曲のとき
(特にFメジャーキー、Bbメジャーキー、Ebメジャーキー)
・ものすごく大変な運指にならないとき
・ジャズやR&Bなどのジャンルにも使える
(特にR&B初期の楽曲はBbメジャーキーで作られていることが多いため)

A管クラリネットにおすすめのシーン

A管クラリネットは「明るく」「軽く」「鋭く(特に高い音程のとき)」「高い音程」を得意としています。

逆に言うと、「深い」「丸みのある」「豊かな」サウンドはBb管クラリネットの方が得意です。

そのため、明るさや鋭さ、軽やかさが欲しいときは、A管クラリネットを指定して作曲するとよいでしょう。

クラリネットの譜面を作曲するときはBb管用とA管用の楽譜を両方用意するべきなのか?

ここまでで「Bb管の方が一般的に使われることが多い」とご説明しましたが、A管もコンサート用の楽曲で使われ、セミプロからプロまで幅広く使われています。

そのため、基本的にクラリネット奏者はBb管とA管の両方を持っており、どちらになってもいいように準備しています。

そして、特にプロのクラリネット奏者はBb管の楽譜をA管に、A管の楽譜をBb管に変換する能力にも長けていることが多いです。
※譜面をパッと見てすぐ移調することができます

そのため、自分がイメージしているサウンドを考慮して楽譜上でどちらか一方を指定することは問題ありませんが、「Bb管用の楽譜とA管用の楽譜を両方用意しておかなければいけない」ということはありません。
※指定する場合、楽譜上では「Bb Clar」「in A」などと記載されることがあります

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

ときには、作曲者が「ここはA管の方がいい」と思ってA管を指定していても、演奏者(もしくは指揮者)によっては「いや、Bb管の方がいい」と判断することがあります。

そのため、例えばA管用に譜面を書いているにも関わらず演奏者側でBb管を使って演奏する場合、移調は演奏者側の責任となります。

つまり、結局のところ「どちらを使えばよいか」は演奏者や指揮者に委ねられますので、作曲するときはあまり気にしなくてもよいでしょう。

Bb管用とA管用の楽譜を並べてみるとどうなる?

例えばブラームスの「Symphony no. 3」のクラリネットパートで、Bb管用とA管用の楽譜を並べてみるとこのようになります。

https://youtu.be/cPHfoPf6Tg0?si=VutzlGQqBPrGlO2p

管の違いにより、楽譜も大きく異なることがわかります。

作曲する場合は、基本的に両方の譜面を用意する必要はありませんのでご安心ください。

実際にある「作曲者と演奏者での見解の違い」

クラリネットのように、1つの楽器で異なる種類(調)の楽器が存在するときに起こるのが、作曲者と演奏者の見解の違いです。

例えば作曲者が「A管特有のダークなサウンドが欲しいんだ」と思っていても、演奏者としては「それなら、Bb管の方が合っているのではないか?」と思うときがあります。

実際このようなときに演奏者がBb管を使うと、作曲者側が求めていたサウンドが得られ、作曲者側が「確かにA管の方がよかったね」と考えを改めることがあります。

つまり「こういうサウンドが欲しい」を考える作曲者と、「それならこの楽器が適している」を考える演奏者で、見解が異なることがあるのです。

作曲者と演奏者が直接話し合える状況であればよいのですが、大半はそうでないため、やはり最終的には演奏者(もしくは指揮者)の判断に委ねられることが多いでしょう。

クラリネットのBb管とA管の違いまとめ

以上が「クラリネットのBb管とA管の違い」でした。

○クラリネットのBb管とA管の主な違い

・譜面の違い
Bb管の「ドレミファソラシド」は「Bb,C,D,Eb,F,G,A,Bb」
※Bbメジャースケールと同じ

A管の「ドレミファソラシド」は「A,B,C#,D,E,F#,G#,A」
※Aメジャースケールと同じ

・トーンの違い
Bb管の方がダークで丸く、豊かな響き
A管の方が甲高く軽やかで鋭い響き

・作曲するときは、自分のイメージに近い方を指定することができる
ただし、それぞれ専用の譜面を用意する必要はない

当サイトでは他にもオーケストレーションについてまとめていますので、是非こちらもご覧ください↓


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