
今回は「プロが使う808ベースの作り方」をまとめました。
ヒップホップやトラップなどでよく使われる「ブーン」「ズン」と重低音が響く808ベースですが、今回はDrakeなどの有名アーティストがよく使うタイプの808ベースの作り方をご紹介していきます。
はじめに:808ベースはどんな音がする?
はじめに「808ベース」がどのようなものなのか、聞いてみましょう。
「ドンッ」というキックのようなアタックと、「ブーン」「ボーン」というずっしり重い低音域が混じっています。
特にヒップホップ系の楽曲で多用されているサウンドです。
808系サウンドを使ったトラックを聞いてみよう
次は、実際に808系サウンドを使った楽曲を聞いてみましょう。
同じ808系サウンドでも楽曲によって少し音が異なりますので、そちらもチェックしながら聞いてみてください。
「こんな感じのベースは聞いたことがある!」と感じた方も多いでしょう。
もともとこの「808ベース」と呼ばれるサウンドは、Roland社のドラムマシン「TR-808」から始まりました。
TR-808はドラムマシンですが、バスドラム(キック)を鳴らすと非常にかっこいい重低音も出たため、今ではそのサウンドが「808ベース」として親しまれています。
808ベースの音やサンプルはどうやって手に入れる?
808ベースはあまりにも有名なサウンドのため、今ではシンセサイザーのプリセットとして収録されていたり、Spliceなどのサンプルサイトで配布されています。
シンセサイザーなどの音源で808ベースを使う
プリセットブラウザで「808」と打ち込むとヒットすることがあります。
サンプル(オーディオファイル)で808ベースを使う
808ベースのサウンドを入手後、サンプラーに取り入れて使うのが一般的です。
(サンプラーに取り入れることで、ピアノのように音程を自由に変えて打ち込むことができます)
808サウンドが使えるおすすめのベース音源は記事の最後にご紹介します。
それではここからは、実際にプロが使っている808ベースの作り方を詳しく解説していきます。
プロが使う808ベース1:ビブラート808
1つ目にご紹介するのは「ビブラート808」です。
Drakeや彼のエンジニアたちがよく使うタイプの808で、文字通りビブラートをかけて「ウォンウォンウォン」と細かくうねるようなサウンドが特徴です。
Drakeの「God’s Plan」という楽曲では、特にはっきりとこのビブラート808を聞くことができますので、ぜひ参考にしてください。
シンセサイザーでベースサウンドを作るときの注意点
1点だけ気をつけて欲しいのが、シンセサイザーを使って音作りをしている場合です。
おそらくDrakeはシンセサイザーでの打ち込みではなく808系のサンプル(オーディオファイル)を使っていることが多いため、ピッチが高くなるとビブラートのスピードも速くなることが多いです。
一方でシンセサイザーを使っていると、どんな音程になってもビブラートの速度が一定になります。
シンセサイザーによってはピッチによってビブラートのスピードも自動的に変わるように設定できるかもしれませんが、Drakeタイプのサウンドを忠実に再現したい場合はこの点に注意が必要です。
808ベースのサンプルを使うときの「ビブラートトリック」
先ほどは808ベースのビブラートの速度について言及しましたが、実はこのビブラートに関する「とあるコツ」があります。
808ベースの場合はプラグインを使ってビブラートをかけなくても、自動的にビブラートをかけることができます。
これは、808ベースがそもそも「ピッチをだんだん下げながら作られた音」だからです。
音の始まりから終わりまでを通してピッチの変化があるため、サンプルの一部を切り取っても、ピッチが微妙に変化しています。
つまり、「キーボードを押している間はサンプルの一部分をずっと往復する」という設定にすれば、音を伸ばしている間はずっとビブラートがかかることになります。
お使いのサンプラーによって設定の仕方は異なりますが、例えばAbletonの場合は「Sustain Mode」で「Back and Forth(行き来)」の設定にします。
Logic Proの場合は「Loop Mode」を「Alternate」にすると同様の設定にできます。
※「Sampler」「Sustain」「Loop」「Loop Mode」などの単語で調べるのがおすすめです
808ベースで広がりを出したい時の秘密のコツ
特にヒップホップやトラップの楽曲でよくあるのが、「ベースは真ん中から聞かせたいけど、同時に広がりも出したい」ということです。
ベースをMonoにしてしまうと広がりがないように聞こえてしまいますが、かと言って左右に広げてしまうと真ん中がスカスカ…ということも多いでしょう。
そんなときは、マルチバンド処理ができるステレオワイドニングツールを使うのがおすすめです。
例えば無料でダウンロードができる「Ozone Imager」は、周波数帯域ごとにどれぐらい音を左右に広げるかを調整できます。

Abletonユーザーの方は「Utility」プラグインの「Bass Mono機能」を使うのもよいでしょう。

「Bass Mono」をONにすると、その下に周波数帯域を入力する欄がありますので、そちらに「どの周波数帯域から上を左右に広げるか」を設定することができます。
左右に広げる範囲は、サンプラーの「Spread」で調整できます。
この機能を使えば、「ベースの中心部分となる低音域だけMonoにして、わかりやすく広がりを出すための中低音域以上だけ左右に広げる」というサウンドを実現できます。
808サウンドのミックスのコツ「中音域以上をサチュレーション」
808サウンドを使うときのコツとして、「中音域以上をサチュレーション」というテクニックがあります。
なぜ重低音が特徴的な808ベースで中〜高音域を目立たせる必要があるのかというと、808ベースの存在感を出すためです。
特にヒップホップやトラップ系の楽曲において、808ベースは非常に存在感があり、楽曲を定義づけるほど目立つパートです。
しかし、そのままの808ベースでは中音域以上が足りず、特に安く小さいスピーカーだとベースが全く聞こえなくなってしまうことがあります。
「808ベースが曲の象徴」というような楽曲なのに、肝心の808ベースが聞こえなくなってしまっては非常にもったいないでしょう。
そのため、リスナーがどんな環境で音楽を聞いてもベースの存在感は出せるよう、808ベースにもある程度の高音域を出させておくのがおすすめです。
ディストーションを加えただけで、かなり存在感がUPし聞き取りやすくなっています。
やり方①
- マルチバンド処理ができるディストーションを使う
- 中音域以上にディストーションをかける
- 必要であれば、EQでうるさい高音域をカットする
やり方②
- 808ベースのトラックを複製する
- 複製した方のトラックにディストーションをかける
- EQで低音域をカットする
中音域以上に広がりを出したい場合は、最後にChorusエフェクトをかけたり、ステレオワイドニングツールを使うとよいでしょう。
ちなみにマルチバンド処理ができるディストーションとしておすすめなのはFabfilter社「Saturn 2」です。
音域ごとにどんなディストーションをどれぐらいかけるのかを自由に決めることができるため、非常に使いやすいです。
Saturnの使い方や実際の効果はこちらでご紹介しています↓
プロが使う808ベース2:ディストーション808
次にご紹介するのは、ディストーションをかけた「ディストーション808」です。
先ほどのように「ちょっとビブラートをかける」「ちょっと音を動かす」のような細かいトリックではなく、思い切って強いベース音を鳴らしたいときに使えます。
まずは、実際のサウンドを聞いてみましょう。
このディストーション808を作る方法は簡単です。
ディストーション808を作る方法
- 808ベースを用意する
- ベーストラックを複製する
- 複製したトラックにディストーションプラグインを使う
- EQでローカットする
3番目にディストーションプラグインを使う工程が出てきますが、どんなタイプのディストーションプラグインを使っても構いません。
強いディストーションをかけると低音域がグシャグシャになってしまうことがあるため、元の808ベースは「本体」としてそのまま残しておき、強烈さを出すための808ベースは「ディストーション808」として別トラックにすると管理しやすくなります。
Bus(グループトラック)で全体にまとまりを出す
いくつかのトラックに分けて1つのベースサウンドを作る場合は、Bus(グループトラック)を使ってまとまりを出すとよいでしょう。
例えば「808ベース(本体)」「ディストーション808」「サブベース」の3つ使っている場合、この3つのトラックに対してまとめてミックス処理を行うのがおすすめです。
まとまりを出す手順
- ベース系のトラックを1つのBus(グループトラック)にまとめる
- ディストーションプラグインを使う(全体に重みとパンチを加える)
- コンプレッサーを使う(アタック・リリース・レシオをやさしめに設定し、まとまりを出す)
ほんの少しだけディレイを加える+ディストーションでプロのようなサウンドにする
中音域以上を担当しているディストーション808にSendを使ってディレイを少しかけ、その後にディストーションプラグインを使うのもよいでしょう。
ディレイにディストーションがかかるので、少しグシャっとしたヒップホップに合うディレイ音を作ることができます。
ディストーションはどのベースにも使える
ちなみにDrakeの「Teenage Fever」のプロデュースを手がけたHagler氏は同曲でベースに極端なディストーションを加え、ユニークなベースサウンドを作っています。
使っているのはsoundtoys社の「Decapitator」で、突発的に「ボンッ」と鳴っているベースに対してディストーションをかけています。
静かにずっしり鳴っているベースに加えて、このように跳ねるような強烈なベースを入れることで、クレイジーな楽曲にしています。
Decapitatorはこのように強烈なディストーションをかけることもできれば、中音域以上を目立たせるための程よいサチュレーションもかけることができる万能プラグインですので、まだお持ちでない方はぜひGETしてください。
プロが使う808ベース3:スライディー808
最後にご紹介するのは、「スライディー(Slidy)808」です。
ピッチが坂道を登り降りするように、スライドするようなサウンドが特徴的です。
基本の音作り
まずは、土台となるサウンドを作る方法をご紹介します。
ここでは「高音域担当の808」と「低音域担当の808」に分け、低音異域担当の808は特に何もせずシンプルな808ベースのままにします。
一方の高音域担当の808には、Ozone Imager(無料)を使って広がりを出しながら、アンププラグインを使ってディストーションをかけます。

両方を同時に聞くと、このような音になります。
音を「スライド」させる方法
それでは、次はいよいよベースを「スライド」させる方法です。
スライドさせる方法は2つあります。
シンセサイザーのグライド(ポルタメント)を使う方法
スライドするような音を作るには、シンセサイザーのグライド(ポルタメント)を使う方法があります。
例えばMassiveの場合は「OSC」タブの「Glide」欄で設定できます。
Serumの場合は、画面右下の「PORTA」で調整できます。
ピッチベンドのオートメーションを書く方法
もう一つの方法は、ピッチベンドのオートメーションを書く方法です。
手間はかかりますが、こちらの方がスライドの速度や音程が動く範囲を自由に変えられるのでおすすめです。

ただの直線ではなく、少しカーブ(曲線)にしてみるとよりクリエイティブなピッチベンドになります。
このようにオートメーションを書いていくと、単なる808ベースを「クリエイティブなベース」にすることができます。
サンプラーで808ベースの音をずっと伸ばす方法
808ベースのサンプルをサンプラーに取り込んで打ち込むと、MIDIノートで音を伸ばしていても実際の音はすぐ減衰してしまうことがあります。
もし808ベースの音をMIDIノートの長さだけずっと伸ばしたい場合は、サンプラーでLoopの設定をするのがおすすめです。
手順
- サンプラーの「Loopモード」や「Zero Crossing」をONにする
- ループする範囲を指定する
サンプラーに搭載されている「Loopモード」や「Zero Crossing」を使うと、指定した範囲をずっとループするようになります。
そのため、元のサンプルの中間部分など、安定して音が鳴っている部分を範囲指定するとMIDIノートで打ち込んだ長さだけ音が伸びるようになります。
おまけ:Drake風の曲を作る秘密のコツ
Drakeの楽曲では、あえてオーディオトラックのスピードを落としたりサンプリングレートを下げて処理しているサウンドがよく見かけられます。
特にボーカルやギター、キーボードなどのメロディー・上モノ系に使えるテクニックですので、こちらもぜひお試しください。
手順
- 加工したいトラックをバウンスする
- ダウンサンプリングorスピードダウンさせる(ダウンサンプリングする場合、例えば44.1kHzのサンプリングレートを7000Hzにしてみる)
ちなみにピッチを上げたりテンポを上げてもDrake風のサウンドになります。
ダウンサンプリングができるディストーションプラグインとしておすすめなのはD16 Group社の「DECIMORT2」です。
このプラグインの魅力や使い方については下記でまとめています🔻
Drakeの曲ではEQで高音域を減らしているわけではない?
先ほどご紹介したダウンサンプリングやスピードダウンのテクニックを使うと、音が少しこもってボワボワした質感になります。
これはDrakeの楽曲でよく見かけるサウンドなのですが、これについてDrakeのプロデューサー・Noah "40" Shebibはインタビューで次のように言及しています。
この水の中にいるようなサウンドをみんな「ローパスフィルターを使って、ただ高音域を減らしているのだろう」と思っているようなのですが、多くの場合、僕はサンプルレートを下げているんです。このようにした方が、ただ音から何かを取っているような感じにならず、正真正銘の"本物"と感じるようなサウンドにできるのです。
さらに、ダウンサンプリングして高音域が減ると、その分アーティスト(歌手)がその音域を占めることができます。「これはルール違反だ」「なんだこの変な音は」「こんなのリリースできない」「高音域はどこに行った」などと言われることもあります。何か違ったことをやりたいと思っているのは僕もDrakeだけでした。でも今ではそれがリスナーに響いています。
おすすめの808ベース系DTMプラグイン
最後に、808ベースが使えるおすすめのベース音源をご紹介します。
プロのようなどっしりした重低音が手軽に作れるプラグインですので、ぜひチェックしてみてください。
Spectrasonics社「Trilian」
最も有名なベース音源の1つです。
シンセベース、エレキベース、アコースティックベース(コントラバス)など、あらゆるベースの音色が収録されています。
そのため、ロック、ジャズ、ポップス、ヒップホップなどあらゆるジャンルに対応できます。
Future Audio Workshop社「SubLab XL」
重低音のベースに特化したプラグインです。
808系ベースのプリセットも充実しており、前述のTrilianよりもかなり安いので、初心者の方にもおすすめです。
以上が「プロが使う808ベースの作り方」でした。
当サイトでは他にも808系サウンドのミックスのコツについてご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください↓


