ミキシングのコツ

プロのエンジニアがボーカルミキシングのとき必ずやっていること

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

今回は、グラミー賞ノミネート経験もあるMarc Daniel Nelsonが教える「ボーカルミキシングのとき必ずやっていること」をまとめました。

プロが実際に行っているボーカルミックステクニックと使用プラグインをご紹介します。

ボーカルミキシングのとき必ず使う2つのプラグイン

僕(Marc)がボーカルミキシングのとき必ず使う2つのプラグインは、「ダイナミックEQ」と「マルチバンドコンプレッサー」です。

この2つは「特定の周波数帯域に対して何かしらのアクションを行う」という意味では同じ動きをするものです。

ダイナミックEQはFabfilter社の「Pro-Q3」、マルチバンドコンプレッサーは同じくFabfilter社の「Pro-MB」を使います。

これらの機能は、ボーカルのミキシングには欠かせない存在となります。

では、なぜこの機能が重要なのかを解説していきます。

レコーディング環境による偏りは必ずある

レコーディング環境や使用機材によっては、特に中音域から高音域の音があまりよく録れていないことがあります。

しかし、基本的にはどのマイクも特定の帯域に対して何かしらの問題や偏りがあるものです。

例えば、200hzだけよく拾ってしまう、7khzあたりだけ強く録れてキツく聞こえてしまうなどです。

どんなに高価なマイクでも問題は発生する

そのため、まずボーカルチェインにおいて、僕は最初にEQ(Fabfilter Pro-Q)を立ち上げ、ダイナミックEQを使います。

ダイナミックEQは、特定の周波数帯域に狙いを定めてEQを行うという機能です。

例えばこの曲のボーカルでは、子音「S」に相当する周波数帯域がキツく、またLow Midのあたりが暴れてしまっているところがあります。

確かこのボーカルは”47”(Neumann U47)で録ったのですが、それでも問題はあるのです。

このようにどれだけ高価なマイクを使っても、どこかに問題は存在してしまうものです。

僕らの仕事は「ミキサー(Mixer)」で、アーティストが伝えようとしているメッセージを適切に伝えるために、音楽的に問題があるところを修正するという役割があります。

そのため、これを心に留めてミキシングしています。

実践(Pro-Qを使ったボーカル修正)

それでは、実際に楽曲を聞いてみましょう。

とりあえずボーカルが一番前に来るようにし、コンプレッサーもかけておらずオートメーションも何も書いていない状態で、2番Aメロを聞いてみます。

3:48~4:30

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

これを聞くと、100hz~200hz、500hz、5khzから10khzの間に問題があることがわかります。

5khzから10khzにある問題は、子音「S」の問題です。

このボーカリスト(Steve)のボーカルは、47(マイク)で録った時にとてもアグレッシブになる傾向にあり、Sの発音の時にとても尖った音になってしまいました。

そのため、ディエッサー、ダイナミックEQ、マルチバンドコンプを使ってどのように処理していくかをお見せします。

5:26~7:06

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

5khzから10khzの対処方法(主に子音「S」部分)

まずは、ディエッサーで5.5khz付近を中心に処理するよう設定しながら、この数値をほんの少しだけ下げていきます。

https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs

6:19~6:31

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

その次に、Pro-QのダイナミックEQ機能を使って、このディエッサーで対処した周波数帯域よりも少し上、だいたい10khz付近を処理していきます。

https://youtu.be/eN6JaUO_nrs

6:42~6:52

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

両方使うと、とてもよく処理できていることがわかります。

試しに、両方ともOFFにした状態を聞いてみましょう。

6:54~7:04

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

この子音付近の処理で重要なのは、やりすぎて発音が舌たらずになっているように聞かせないことです。

やりすぎると何を言っているのかわからなかったり、しっかり発音できていないように聞こえてしまうので、注意しましょう。

500hz付近の対処方法(Low Mid)

次は、Low Midの500hz付近を処理していきます。
※Pro-Qでは、ヘッドホンマークをクリックするとその周波数帯域だけをソロ状態で確認することができます

探ってみると、524hz付近がごちゃごちゃして聞こえてしまうことがわかったので、このあたりをピンポイントで狙います。

7:11~7:50

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

100~200hz付近の対処方法

次は、より下の100~200付近の処理です。

先ほどと同様、ヘッドホンアイコンを押して対象の帯域をソロ状態で聞きながら、問題のある部分を探ります。

8:22~8:42

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

ディエッサーとダイナミックEQを先に使う理由

僕がコンプレッサーより先にディエッサーとダイナミックEQを使ってこのように処理するのは、コンプレッションでボーカルをカラーリング(味付け)する前に、ボーカルをキレイに整えておくためです。

これらの処理を行わないままコンプレッサーを使うと、このようにいろいろな帯域で音が暴れているままコンプレッサーが作動してしまうことになります。

僕はものすごく徹底解剖してボーカル処理をするのが好きではなく、今回も非常にシンプルな、一般的なやり方でディエッサーとダイナミックEQを使いました。

https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs

100~200hz、500hz、5~10khz付近は特に部屋の影響を受けやすい部分ですので、必ずしもこの帯域に必ず問題があるというわけではありませんが、”この帯域に問題があることが多い”ということを念頭に置いて処理すると良いのではないかと思います。

別のセクションも見てみよう

先ほどはAメロを確認しましたが、今度はBメロを確認していきます。

ここでは2khzあたりに問題があるので、先ほどのAメロの設定をコピペし、2k付近の設定を追加します。

10:15~10:42

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals
https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs

コンプレッションをする

EQで整えた後は、いよいよコンプレッションで味付けしていきます。

今回はklanghelm社「MJUC」Softube社「TUBE-TECH」を使いますが、最初はあまり強く使わず、最大で0.5dB以上のリダクションが起こらないようにします。

これぐらいに抑えれば、ほどよく味付けができ、自然にまとまりが出ます。

11:03~11:30

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals
https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs
https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs

Waves社「MV2」で音量レベルの調整

次はWaves「MV2」を使い、音量が小さい部分を持ち上げます。

音量を調整するとき、音量が大きい部分を押さえるのではなく、小さい部分を持ち上げて音量の落差を縮めるようにするのです。

Waves「MV2」は、Waves社の人気バンドル「Gold」「Platinum」「Diamond」などにも同梱されています。
Gold→Platinum→Diamondの順で値段が安く、Goldが一番プラグイン数が少ないですが、初心者であればこれだけでも十分です。

11:58~12:05

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals
https://www.youtube.com/watch?v=eN6JaUO_nrs

おまけ:曲のブレイク部分で強めのディストーション

この曲にはブレイク部分がありますが、ここではディストーションをかけています。

使っているのはsoundtoys社の「devil-loc」です。

12:19~12:54

The One Thing I Always Do When Mixing Vocals

おすすめプラグインを購入する


以上で解説は終了です。

当サイトでは他にもミックスのコツをご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください↓


人気記事

1

もっとミキシングがうまくできるようになるには、どうすればいいの?いいエンジニアになるための習慣ってあるの? 今回は、このようなお悩み・疑問にお答えする内容です。 世界的に有名なプラグイン・ソフトウェアを開発するiZotope社が解説する「ミキシング(MIX)を上達させるための7つのトレーニング」をまとめました。

2

世界中でヒットするキャッチーな曲って、どうやったら作れるの?今回はこのような疑問にお答えする内容です。テイラー・スウィフトやアリアナ・グランデ、The Weekndなどを手がける天才プロデューサー・Max Martinが使っている「Max式作曲法」をご紹介します。

3

今回は、「Sonarworks SoundID Referenceの使い方」をまとめました。

DTMをするなら絶対に持っておきたいこの製品について、なぜこの製品がおすすめなのか、どの種類を買うべきなのか、具体的な使い方と測定方法をご紹介します。

4

今はネットでいろいろな音楽制作の情報を手に入れられる便利な時代ですが、中には間違った情報もあります。日頃からYouTubeでミックス勉強してるぜ!という方にご覧いただきたい内容です。海外プロが解説する「YouTubeで見つけた、よくないミキシングのTips10選」をまとめています。

5

今回は、音楽プロデューサーのIZZYが解説する「プロのようなボーカルミックスをする秘密の公式」をまとめました。作曲においてプロとアマチュアを分けるポイントの1つが、ボーカルミックスのクオリティです。この記事では、どのようにすればプロのようなボーカルMIXができるのかを解説していきます。

6

今回は、「サーフロックギターの弾き方・ギター音の作り方」をまとめました。 「サーフロック」と言えば、ディック・デールの楽曲「MISIRLOU」を思い出す方も多いのではないでしょうか?まさに「サーフィン」「海の男」を感じさせるような音楽です。今回はこのディック・デール風のサーフロックギターを弾く方法を、リズムやエフェクトのかけ方からご紹介していきます。

7

今回は音楽プロデューサーのBthelickが解説する「なぜあなたのテックハウスはプロのように聞こえないのか?」をまとめました。テックハウスを自分で作ってみると、プロのようなサウンドにならず悩む方も多いでしょう。そこでこの記事では、どうすればプロのようなテックハウスを作ることができるのか、そのコツを4つご紹介します。

ボーカルレコーディングを劇的にキレイにする2つのコツ【海外プロ解説】 8

ボーカルのレコーディングがうまくできない…どれぐらいの音量で録音すればいいの?という方のための記事です。海外エンジニアが教える「ボーカルをプロのクオリティで録音するためのコツ」をご紹介!コツはたったの2つ、今日からすぐ実践できます!

9

今回は「カリッとしたボーカルにするためのMIXテクニック」をまとめました。全部で9個あり、組み合わせて使うことで非常に魅力的な音にすることもできます。初心者の方から上級者の方までお試しいただける内容ですので、ぜひご覧ください。

10

今回は、バークリー音楽大学卒業生のStuart Lehman-Brownが解説する「あなたは音楽学校に行くべきか?」をまとめました。自身が世界で最も有名な音楽大学を卒業した経験をもとに、音楽大学に行くべきかどうかを徹底的に解説します。かなり現実的な話になっていますので、音大に行くかどうか迷っている方の参考になります。

-ミキシングのコツ