ミキシング・マスタリング

DTMのコンプレッサー「VCA」「Opto」「FET」「Delta-Mu」の違いは? Part2

今回は、世界的に有名なプラグイン・ソフトウェアを開発しているiZotope社が解説する「アナログコンプレッサーの4つタイプの違い」をまとめました。

この記事ではPart2として、「FET」と「Delta-Mu」の解説、各コンプの「見た目」の違いをご紹介します。

Part1

元記事は「アナログコンプレッサー4種類についての解説」となっていますが、ソフトウェアでもアナログコンプレッサーをモデルにしたものがありますので、今回の内容を知っておくと音楽制作に非常に役立ちます。

別記事でもこれらの内容を解説していますが、今回はより科学的・工学的なところまで深掘りした内容です。

FETコンプとは?

https://www.uaudio.jp/blog/analog-obsession-1176-history/?srsltid=AfmBOoo66H2WkuBZ4DbVsemC0mYYwaWSKpwwowHoByA9-1p3mwExlZQx

「FET」は「Field Effect Transistor」という意味です。

「Transistor(トランジスタ)」とは、簡単に言うとダイヤル(ツマミ)の設定によって信号を増幅・減衰させることができる半導体のことです。
(「トランジスタ」は「トランスミッター」と「レジスタ」の混成語です)

FETコンプとVCAコンプの違いは?

多くの人が「FETとVCAの違いは何?」と思っていると思います。

実際これらを区別するのは難しいのですが、この2つにはトランジスタに基本的な違いがあります。

VCAコンプでは、トランジスタがICの中に組み込まれており、入力信号の電圧に反応します。

一方、FETコンプは全体として「電界」ではたらきます。

ゲインの変化は、電圧に加えた電荷の結果なのです。

FETとVCAのどちらを使えばいい?

この説明もややこしいと感じるかもしれませんが、FETとVCAのどちらを使うかを選択するのは重要なことです。

1176のようなFETコンプは、非常に速いAttack Timeにすることが可能です。

そのため、マスタリングに使うのは避け、ドラムやギターに重ねて使う人も多いです。

それぞれの特性を理解しながら、どんな楽器に、どんなBus(グループトラック)に使えばよさそうか、試してみましょう。

「feed-back」と「feed-forward」とは?

VCAコンプの中には、API 2500やMaster Buss Processor(Rupert Neve Designs社)のように、 feed-backとfeed-forwardを切り替えることができるものがあります。


画像:API 2500(https://www.uaudio.jp/uad-plugins/compressors-limiters/api-2500-bus-compressor.htmlより)
(「TYPE」ボタンで、Newモード=feed-forwardモードとOldモード=feed-backモードに切り替えられます)

画像:Master Buss Processor https://rupertneve.com/products/master-buss-processor (オレンジのボタンの中に「FF」と「FB」と書いてあるボタンがあります。これが切り替えスイッチです)

この feed-back・feed-forwardとは、一体何なのでしょうか?

アナログコンプでは、信号は検出器(ディテクター)とオーディオの2つに分けられます。

feed-forwardコンプでは、検出器はエフェクトがかかる信号と同じ信号を受け取ります。

一方、feed-backコンプでは、回路はコンプレッサーがすでにかかっている信号を受け取ります。

つまり、エフェクトがかかるときには、すでにコンプレッサーのかかった信号を読み取ることになるのです。

これにより、もちろんコントロールは可能ですが、よりスムーズなコンプレッションが望めます。

Delta-Muコンプとは?

Monleyが“Vari-Mu”で商標登録し、由緒ある"Fairchild"で見られる「Delta-Mu」コンプは、「チューブ」に依存するタイプのコンプです。

画像:Vari-Mu(https://media.uaudio.comより)


画像:Fairchild(https://media.uaudio.comより)

つまり、再バイアスされたチューブが、「ゲインの減少の量とタイミングを知っているメカニズム」となるのです。

Delta-Muコンプのはたらきかた

では、これは回路でどのように動くものなのでしょうか?

このコンプレッサーでは、コンプレッサーに送られる信号の量が増えるほど、実際にチューブのグリッドに送られる量が減り、最終的に全体のレベルが下がるのです。

言い換えると、チューブはゲインリダクションの「メインエンジン」となるのです。

OpticalコンプであるLA-2Aなどでは、チューブはそれ自身の構造に組み込まれていますが、ダイナミクスを抑えるためにチューブに頼るといったことはしません。

もちろんこれはかなり簡略化した説明ですので、他にもいろいろなことが内部で起きています。

Delta-Muコンプ 音の特徴

このコンプを使った音を表現する言葉としては、「なめらか」「厚い」「クリーミー」の3つが挙げられます。

これはチューブ回路の質から来ており、チューブによって心地よい歪みなどが生まれます。

Delta-Muのようなコンプレッサーは、不必要な加工音が作られる前に、かなりの量のゲインリダクションの量を操作することができます。

また、音全体にまとまりを出すのに適しているので、ミックスBus(グループトラック)に使うと効果的です。

各コンプの「見た目」の違い

また別の視点から考えると、面白い点が見受けられます。

LA-2AやLA-3Aなど、多くのOpticalコンプにはAttackのツマミがありません。

1176など、FETコンプにはThresholdのパラメータはありません。

FairchildやVair-Muなど、Delta-MuコンプにはRatioのツマミがありません。

VCAコンプのみ、基本的には全てのパラメーター(ツマミ)がそろっています。

もちろん、例外もあります。

たとえばソフト・ハードどちらにおけるOpticalコンプでも、Attack・Releaseが調節できるものもあります。

しかしあなたがまだなじみのないDAWに付属しているコンプを見たとき、これまでに説明したような特徴が見受けられるはずです。

そのときは、そこにないコントロール(ツマミ)を把握することで、手っ取り早く「これから何をするべきか?」がわかるようになります。

コンプレッサー「VCA」「Opto」「FET」「Delta-Mu」の違いまとめ

ここまでいろいろと解説をしてきましたが、「電光セル(フォトセル)がどのようにはたらくのか?」などは知らなくても大丈夫です。

しかし、この世にあるあらゆるコンプレッサーがこの基本にもとづいているので、コンプレッサーについての基本的なこと知るのは、非常に大切です。

多くのエンジニアが、「ボーカルにはFETやOpticalコンプを使う」と決めていたり、「ドラムのバスにはまとまりをつくったりピシャっと叩いた感を出すためにVCAコンプを積極的に使う」と決めていたりします。

それぞれに特質があり、エンジニアとしてはそれらを理解する必要があります。

その特質や音を理解することは、より早く理想の音にたどり着くための助けとなります。

特に、あまりなじみのない環境でコンプを使うことになったときに役立つでしょう。

当サイトでは他にもコンプレッサーについて解説していますので、ぜひこちらもご覧ください↓


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