
今回は、DTMでも非常に人気のある「dbx160コンプレッサー・リミッター」についてまとめました。
アタックやリリースのパラメーターの調整に苦戦している方や、手軽にプロのサウンドをGETしたい方にはおすすめの製品ですので、ぜひチェックしてみてください。
(再現度の高さで人気のUniversal Audio社のプラグイン版を使って解説をします)
dbx160コンプレッサーの主な魅力3つと活用例

dbx160コンプレッサーの主な魅力は、こちらの3つです。
・パラメーターが少ないので操作がカンタン
・パンチも出る&小さなニュアンスもしっかり聞き取りやすくなる
・音全体にまとまりを出しやすい
dbx160を使うとしっかりコンプレッションがかかるため、音抜けが良くなるだけでなく、音全体にまとまりが出ます。
「演奏は悪くはないけど、もうちょっと良くなりそう」「なんとなくプロっぽくない」「音全体にまとまりがない」という時に使うと便利です。
またUniversal Audio社のプラグイン版などではプリセットが充実しており、どの楽器にも使いやすいため、初心者の方にもおすすめです。
パラレルコンプレッションでdbx160を活用する例
パラレルコンプレッションは、コンプレッサーをかける前の音とかけた後の音の割合を自由に調節できるのが大きなメリットです。
そのため、dbx160の効果を自由に調節することができます。
特にドラムBus(ドラム全体)に使うと、部屋鳴りやシンバルの小さなニュアンスもしっかり持ち上がって聞こえるため、全体の音量感と存在感がアップします。
上手な演奏に聴かせるためにdbx160を活用する例
dbx160を使うと、トランジェント(アタック)はクリアではっきり出るようになりつつも、全体の音量を整えることができます。
そのため、細かい楽器の演奏のニュアンスが伝わりやすくなるだけでなく、音量が安定していて上手な演奏に聴かせやすくなります。
例えばエレキベースに使用すると、ピックや指弾き特有の質感・アタック感がしっかり前に出て聞こえるため、より演奏の細かいニュアンスが伝わりやすくなります。
さらにコンプレッションにより音量が安定するため、全体的に聞きやすい演奏になります。
アコースティックギターに使用すると、弦を弾くピッキングの音だけでなく、ボディ(低~中音域)の音もしっかり持ち上がって聞こえるため、存在感がUPします。
また、他の楽器に埋もれてしまっているギターを前に出すこともできます。
dbx160コンプレッサーの使い方(UAD版)

dbx160は、主に3つのパラメーターを操作して使用します。
THRESHOLD:コンプレッションをかけ始める音量を決めます。
COMPRESSION:コンプレッションの強さを決めます。(レシオ)
OUTPUT GAIN:コンプレッサーをかけた後の音量を調整します。
※COMPRESSIONを高くしたときなど、コンプレッサーが強くかかったときに調整すると便利です。
「METER」セクションには3つボタンがあり、それぞれ右側のメーターで表示するソースを決めます。

INPUT:メーターでINPUTの量を表示する
OUTPUT:メーターでOUTPUTの量を表示する
GAIN CHANGE:メーターでゲインリダクションの量を表示する
dbx160をエミュレートしたプラグインの中には、その他のパラメーターが付いていることがあります。
例えばUniversal Audio社のプラグイン版では、以下のパラメーターを使うことができます。

PULL/SC:SHIFTキーを押しながらクリックをすると、ディテクターにローパスフィルターをかけます。
※低音域の音量に反応しなくなるので、例えばバスドラムが鳴ったときだけ強くコンプレッサーがかかることを防ぐことができます

MIX:コンプレッサーをかける前の音とかけた後の音量の割合を調整します(Dry:Wet)
※MIX量はMIXノブの左右にある「dbx」「160」の文字をクリックすることでも調整できます。
dbx160のアタックタイムとリリースタイムはどれぐらい?
dbx160にはアタックとリリースのパラメーターがないため、内部で自動調整されます。
アタックとリリースは、スレッショルドをどれぐらい超えたかによって異なります。
スレッショルドを10dB超えたとき:アタックタイムは15ミリ秒
スレッショルドを20dB超えたとき:アタックタイムは5ミリ秒
スレッショルドを30dB超えたとき:アタックタイムは3ミリ秒
スレッショルドを1dB超えたとき:リリースタイムは8ミリ秒
スレッショルドを10dB超えたとき:リリースタイムは80ミリ秒
スレッショルドを50dB超えたとき:リリースタイムは400ミリ秒
※125dB/sec rate
スレッショルドを大きく超えるほど「トランジェントが出過ぎている音だ」と判断するため、より速いアタックタイム・より遅いリリースタイムになります。
出過ぎたトランジェントを抑えたいときや音数の多いドラムに使うような数値になっています。
dbx160はRMSレベルディテクションが特徴
多くのコンプレッサーは、その瞬間・突発的に出た音を検知してコンプレッションをかけるかどうかを決めるピークレベルディテクション(Peak Level Detection)を採用しています。
その瞬間瞬間の音を細かく捉えるため、出過ぎた音を確実に抑えるのが得意です。
一方、dbx160は「RMSレベルディテクション」を採用しています。
これはより人間の耳に近い形で音量を検知する方法で、機械のように非常に細かく一瞬一瞬の音を検知するのではなく、もう少し長い範囲で区切って音量がどれぐらいであったかを考えます。
そのため、人間が「音が大きいな」「これぐらい抑えたいな」と思ったのと同じぐらいのコンプレッションがかけやすくなります。
つまり、機械的ではなく人間の感覚に近いコンプレッションをかけるのが得意です。
dbx160は「1176」「LA-2A」「Fairchild」とどう違う?
dbx160と同様に有名なコンプレッサーとして、「1176」「LA-2A」「Fairchild」が挙げられます。
いずれもそれぞれ特色が異なるため、個々の特性を理解して上手に使い分けられるとよいでしょう。
dbx160

- VCAコンプレッサー(Bus・グループトラックに対して使われることが多いタイプ)
- 操作はシンプルだが、アタックやリリースが調整できない(自動設定)
- しかしソース(音)によって自動調整されるため、必要なトランジェントも維持できる。
- コンプレッションはハードニーで行われる。
LA-2A

- オプティカルコンプレッサー(ややゆったり動作し、なめらかなコンプレッションが得意)
- 操作がシンプルだが、アタックやリリースが調整できない(自動設定)
- コンプレッションはソフトニーで行われる。
- 自然でクリアなサウンドになりやすい。
1176

- FETコンプレッサー(反応が速くバキっとしたアグレッシブなコンプレッションが得意)
- アタックやリリースが調整ができる。
- パンチのあるサウンドになりやすい。
Fairchild

- Vari-Muコンプレッサー(真空管を使って色付けもコンプレッションも行うのが得意)
- 温かみのある音になりやすい
ちなみにLA-2A、1176、Fairchildについては下記の記事で詳しく解説しています。
いずれの特徴も把握しておくとプロレベルの使い分けができるようになりますので、ぜひ参考にしてください🔻
また、dbx160と同じVCAコンプレッサーとして有名な「API2500」についてはこちらの記事で解説しています🔻
dbxの歴史

「dbx」は1971年に創立された会社で、当時はレコードが主な試聴手段として使われていた時代です。
レコードは、レコード盤に刻まれている溝の振幅をレコード針を使って読み取ることで音を鳴らしています。
この仕組みにより物理的な制限が生まれるため、あまりにも音量差が大きい音楽は再生できません。
CDのダイナミクスレンジ(最小音量と最大音量)は約96dBですが、アナログレコードは約60~65dBです。
例えばオーケストラやジャズ、ロックでは、20dBほどの非常に音量が小さい部分もあれば、100dBを超える非常に大きい部分もあります。
しかし、レコードではこれほど大きなダイナミクスレンジを表現することはできません。

そこで、dbx創立者のDavid Blackmerは「表現できるダイナミクスレンジの幅を広げることで、リアルな演奏を聴いているときにより近い感覚になれるのではないか」と考え、オーディオエンジニアリングの力でさまざまな製品を開発することにしました。
そしてダイナミクスレンジの幅を広げる=聴こえるデシベル(dB)を拡張させる(Expansion)という意味を込めて、「DeciBel eXpansion」=「dbx」という会社を設立し、さまざまなオーディオ関連の製品を開発するようになりました。
このダイナミクスレンジの問題の解決策として、まず挙げられるのがdbxノイズリダクションシステムです。
これは、録音時に信号を圧縮し再生時に伸張するという「リニア・デシベル・コンパンディング」を用いた画期的な手法です。
この技術により、テープヒスノイズを低減し、元のソースに近い音にすることで、演奏のダイナミックレンジを再現することができました。

dbx160を含め、コンプレッサーやリミッターは音量を抑えて音量差を縮めるので、逆にダイナミクスレンジを狭める効果があります。
そのためDavidは当初リミッターの開発にあまり乗り気ではなかったそうですが、dbx160をはじめ、コンプレッサーによってとてもユニークなサウンドを得られたり、理想のサウンドに近づけることができました。
“dB”は”Expansion”しませんでしたが、音楽的な表現の幅は”Expansion”できるようになり、大成功を収めることができました。
David Blackmerは何をした人?

David Blackmerはエレクトロニクスエンジニアで、アメリカ海軍・ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学で電子工学(エレクトロニクス)を学び、ボストンのレコーディングスタジオに就職した経緯を持っています。
dbxを創立し、会社を売却した後はEarthworks Audio社を設立しています。
(ドラム用マイクなどでもおなじみの、とても有名な会社です)
彼はVCA(Voltage Controlled Amplifier)であるBlackmer Gain Cell(dbx202)の開発に成功しています。

他にもVCAを開発している会社や人はたくさんいましたが、彼ほどの高い水準に達する製品を開発している人はいませんでした。
特に、ノイズが少なく、より広いダイナミクスレンジを表現できる点が大きく評価されていました。
一方で、Blackmer Gain Cellには「各トランジスタを非常に入念に組み立てる必要がある」という課題もありました。
そのため、当時の製品は特別なセラミックでトランジスタを固定し、さらに黒い缶で外側を覆っていました。

そしてこの「The Black Can」の誕生の数年後には、他のdbx製品とのイノベーションを組み合わせて「dbx160」が誕生します。

おすすめのdbx160系DTMプラグイン
最後に、dbx160のサウンドをDAWで使うためのおすすめプラグインをご紹介します。
dbx160をエミュレートしたプラグインの中では、Universal Audio社とWaves社のプラグインがおすすめです。
非常に万能なプラグインですので、ぜひチェックしてみてください!
-150x150.jpg)


