
今回は、DTMで人気の「Manley VOXBOX」の魅力と使い方をまとめました。
1996年に開発されたManley VOXBOXは、数ある音楽制作関連機材の中でも「レジェンド」と呼ばれるほど有名な製品です。
一体どんなところが魅力で、なぜこれほどまでに世界中で愛されているのでしょうか?
この記事では、Manley VOXBOX系のプラグインでも特に人気のあるUniversal Audio社版のプラグインを使いながら、この製品の魅力と使い方、そしておすすめのManley系DTMプラグインをご紹介します。
「Manley VOXBOX」を使うとどんなサウンドにできる?
はじめに、「Manley VOXBOX」を使うとどんなサウンドになるのかをご紹介します。
「VOXBOX」という名前の通り、特にボーカルに使える製品ではありますが、それ以外の楽器にも使えるほど万能な製品です。
Manley VOXBOXを使うだけで、ボーカルの音抜けがとても良くなることがわかります。
ボーカル以外の楽器に使用しても、音抜けがよく安定したサウンドになります。
ドラムに使用するときは、パンチや太さを加えるだけでなく、ディエッサーでうるさいシンバルを調整することもできます。
「Manley VOXBOX」はどんな製品?5つの特徴と魅力
ここでは、「Manley VOXBOX」の特徴と魅力を5つご紹介します。
Manley VOXBOXの特徴と魅力1.オールインワンのチャンネルストリップ

Manley VOXBOXをカテゴリ分けすると「チャンネルストリップ」に分類されます。
この製品1つの中にEQ・プリアンプ・コンプレッサー・ディエッサーなど、さまざまな機能が搭載されています。
よくレコーディングスタジオで見かけるミキサー卓をよく見てみると、1チャンネル(縦1列)にEQやコンプレッサー、音量フェーダーが搭載されていて、それが横にズラっと並んでいることがわかります。

「このマイクで録っているバスドラムの音はこのチャンネルで調整しよう」「このギタートラックの音はこのチャンネルで調整しよう」など、楽器やマイクごとにチャンネルが分かれています。
この長い縦1列分の機能を製品化したのが、チャンネルストリップです。
Manley VOXBOXを1つ使うだけであらゆる処理ができるので、例えば「EQで高音域を増やしたら耳が痛くなったから、ディエッサープラグインを追加しよう」という作業も不要です。
Manley VOXBOXの特徴と魅力2.メーターで状況を確認しやすい

Manley VOXBOXにはVUメーターがあり、さまざまな情報を可視化することができます。
この製品にはプリアンプやEQ、コンプレッサーやディエッサーなどさまざまな機能が搭載されているため、どの機能でどれぐらい音が変化しているのかを把握することが大切です。
この製品なら、VUメーターでは「INPUT信号の量」「コンプレッサーのゲインリダクション量」「プリアンプを通った時の平均ラウドネス」など、さまざまな情報を表示することができます。
オールインワンの万能製品ですが、各機能による効果をしっかり可視化してチェックできるのも大きなポイントです。
Manley VOXBOXの特徴と魅力3.ボーカル以外にも使える

「VOXBOX」という名前の通り、基本的にはボーカルの処理に適した製品ではあるのですが、ボーカル以外の楽器にも使えます。
例えばディエッサーはボーカルにおいて子音を抑える目的で使われますが、ドラムのうるさいシンバルを抑えるのにも使えますし、ギターのキツい弦の音を抑えることもできます。
GAINノブを使えばManley VOXBOX特有のカラーを付け足すこともできますので、どんな楽器も独特のカラーに染めることができます。
もちろんカラー付けをしない透明感のあるサウンドにすることもできますので、選択肢が多いのも魅力の1つです。
Manley VOXBOXの特徴と魅力4.プリセットが豊富で初心者でも使いやすい

Universal Audio社のプラグイン版では、プリセットが多数収録されているため、初心者の方でも使いやすくなっています。
ボーカルだけでなく、ギターやベース、ドラムに使えるプリセットも多数収録されています。
Manley VOXBOXの特徴と魅力5.ノイズが少なくクリーンなサウンドにできる
Manley VOXBOXの特徴の1つが、プリアンプの前にコンプレッサーが通る点です。

プリアンプは信号を増幅させることができ、コンプレッサーは出過ぎた音を抑え、最大音量と最小音量の差を縮めることができます。
コンプレッサーを使うと小さい音もはっきり聞こえるようになるメリットはありますが、逆に言えば小さなノイズも聞こえやすくなってしまうデメリットもあります。
特に、プリアンプで信号を増幅させてからコンプレッサーをかけると、ノイズがとても目立ってしまうことがあります。
しかし、Manley VOXBOXはプリアンプの前にコンプレッサーが使われるので、コンプレッサーを強くかけてもノイズが目立ちにくくなります。
さらに、コンプレッサーがプリアンプよりも先に使われるため、コンプレッサーでパンチを出せばそのパンチのあるサウンドをそのままプリアンプで増幅することができます。
Manley VOXBOXのパラメーター・画面の見方
Manley VOXBOXはチャンネルストリップのため、コンプレッサーやEQなどさまざまな機能を使うことができます。
一方で、どの機能がどんな順番で処理されるのかを把握しておかないと、思うような結果が得られないことがあります。
「どんな機能が使えるか?」だけではなく「どんな順番で処理されていくのか?」を把握しておくことも大切です。
Manley VOXBOXのパラメーターと処理の順番

Manley VOXBOXのポイントの1つに「信号のプロセス順にパラメーターが並んでいる」という点が挙げられます。
パッと見て何のパラメーターがどこにあるのか…と混乱してしまうかもしれませんが、これを知っておくと操作がグンとラクになります。
プロセスの順番
- INPUT(アテニュエーター)
- コンプレッサー
- プリアンプ・ゲイン・サイドチェイン
- EQ
- ディエッサー・リミッター
- OUTPUT
ここからは、各パラメーターの使い方を解説していきます。
Manley VOXBOXのパラメーター1.INPUT(画面左下)

Manley VOXBOXの「INPUT」はINPUT Attenuator(インプットアテニュエーター)です。
「INPUT」と聞くと「どんどん増やせば音量も効果も上がるもの」と思いがちですが、Manley VOXBOXの場合はINPUT Attenuatorのため、「増やす」よりも「減らす」役割のパラメーターです。
デフォルトでMAX(右)になっているため、音量が大きすぎるときはノブを左に回して調整します。
INPUTを増やしたからと言って独特のサチュレーション(温かみ)が得られるというわけではありません。
そのため、クリーンな音のまま処理をすることができます。
Manley VOXBOXのパラメーター2.コンプレッサー

コンプレッサーでは、スレッショルド・アタック・リリースをもとにコンプレッションをします。
レシオは「3:1」で決まっており、自然なボーカルコンプレッションにピッタリの数値に設定されています。
またハードウェア版(オリジナル版)に搭載されていたコンプレッサーはオプティカルコンプレッサーで、なめらかで自然なコンプレッションが得意なタイプです。
そのため、ボーカルに最適のコンプレッションをすることができます。
スレッショルド
右に回すほどスレッショルドが下がり、コンプレッサーがかかりやすくなります。

アタック・リリース
マニュアルに記載はありませんが、アタックはLA-2Aと同程度の10m秒前後と言われています。
リリースはSLOWで5秒、MEDIUM SLOWで2秒、MEDIUMで1秒、MEDIUM FASTで0.5秒、FASTで0.3秒です。

LINK・SEPARATE
左右チャンネルの音を同じように処理するか(LINK)、別々に処理するか(SEPARATE)を決めます。
※ボーカル単体の場合はモノラル音源であることが多いため、こちらを操作する必要はあまりないかもしれません。

バイパス・COMPRESS 3:1
コンプレッサーをバイパスにするか、ONにするかを決めます。

黄色いメーターの表示を「G-R」にすると、コンプレッサーによるゲインリダクション量をメーターで確認することができます。
(「MANLEY VOXBOX」の文字ラベルの下にあるノブを一番左に回す)
Manley VOXBOXのパラメーター3.プリアンプ・ゲイン

プリアンプ・ゲインでは、元になる音のソースや音量に関するパラメーターを調整します。
LINE・MIC
ハードウェア版ではLINE入力とMIC入力によってINPUT信号のレベルを調整することができました。UADプラグイン版では、MICにすると音量の変化はありませんが、LINEにすると約4dBのリダクションが発生し、音量が下がります。

0°・180°
位相を反転させます。

120・80・FLAT
120Hz以下の音域をカットするローカットフィルターのON/OFFを切り替えます。FLATにするとフィルターはOFFになります。

GAIN
ネガティブフィードバックの量を決めます(※詳しくは後述)

コンプレッサーのプロセスの順番に注目
ここで注目していただきたいのが、コンプレッサー・プリアンプ・サイドチェインの順番です。

まずコンプレッサーにおける「サイドチェイン」とは、INPUT信号として入ってきた音を検知する場所のことです。
サイドチェインで聞こえた音をもとに、どれぐらいコンプレッションをかけるかどうかを決めます。
(サイドチェインにハイパスフィルターをかけられる製品では、低音域の音量を考慮しない=低音域に反応しにくくすることもできます)
Manley VOXBOXではコンプレッサー→プリアンプ→サイドチェインの順番になっているため、コンプレッションをし、プリアンプで増幅した音をサイドチェインが確認することになります。
この3つは常に循環しているので、プリアンプの設定・結果はコンプレッサーに影響し、コンプレッサーの設定・結果はプリアンプに影響します。
例えばプリアンプでローカットフィルターをFLAT(OFF)にしたときとONにしたときでは、コンプレッサーによるリダクション量が変化します。
ローカットフィルターをFLAT(OFF)にしているときは、リダクション量が最大7dB程度になりました。
しかし120に設定したときは、6dB程度になりました。
ローカットフィルターで不要な音域をカットしたことによって音量が下がったので、コンプレッションがかかりにくくなっていることがわかります。
Manley VOXBOXを使用するときは、このようにプリアンプとコンプレッサーが常に影響し合っていることを知っておくことが大切です。
GAINではネガティブフィードバックの量を決める
Manley VOXBOXにおける「GAIN」は、単純に「音量を上げて」と指示をするパラメーターではありません。
アンプにおけるネガティブフィードバックの量を調節するパラメーターです。

コンプレッサーにおける「ネガティブフィードバック」とは、「信号が大きすぎるからちょっと減らしてね」という指示のことです。
信号が大きすぎるとアンプを通ったときに音が歪んでしまうことがあるため、なるべくクリーンな状態で信号を送るために使われます。
チューブプリアンプ回路でどれぐらいネガティブフィードバックを行うかを決めます。
GAINが大きい:フィードバックの量が少ない=音量が大きくなる、音にカラー付けがされやすくなる
GAINが小さい:フィードバックの量が多い=音量が小さくなる、音にカラー付けがされにくくなる
Manley VOXBOXには「INPUT」もありますが、GAINの違いは次のようになります。
INPUT(Attenuator)
- Manley VOXBOXを通る前の元の音の信号に対して適用される
- 音のカラー自体は変わらない
GAIN
- プリアンプに対して適用される
- 音のカラーが変わる(トランジェントレスポンスや倍音成分に影響が出る)
GAINによる変化はトランジェントレスポンスや倍音、クリッピングにも影響するため、GAINを調整すると音のトーンも若干変化します。
(どれだけパンチのある音になるか、温かみのあるサウンドになるかなどに影響します)
どちらも「レベルの調節」という意味では同じなのですが、「いつ何に対して適用されるのか」のステージが異なるため、影響の仕方がそれぞれ異なります。
GAINを上げると音量が上がりますので、音量が大きすぎると感じたら画面右上の「OUTPUT」を少し下げるのがおすすめです。
上記の例を見てみると、GAINを上げたときはコンプレッサーでかなりのリダクションが発生していることがわかります。
Manley VOXBOXのパラメーター4.EQ

EQ(イコライザー)では、低音域・中音域・高音域に分けて周波数帯域ごとの聞こえ方を調節します。
各音域において、調整対象の周波数は数値が書いてある下のノブで、どれぐらい調整するかは上のノブで決めます。
低音域と高音域は「右に回すほど増やす」になりますが、中音域は「右に回すほど減らす」ので、注意しましょう。

LOW PEAK:右に回すほど低音域を増やす
MID DIP:右に回すほど中音域を減らす
HI PEAK:右に回すほど高音域を増やす
XFMR IN:信号をトランスに通し、カラーを付け加える
EQ IN:EQをON/OFFする
例えばMID DIPでは中音域を減らすことはできても、増やすことはできません。
しかし、LOW PEAKやHIGH PEAKでは500~1000Hzも選択できるようになっているため、LOW PEAKのパラメーターを使って中音域を増やすことはできます。
Q幅は調整できませんが、LOW PEAKとMID DIPは広めのBellになっています。

一方、HIGH PEAKのQ幅は少し狭めになっています。


キツい高音域を抑えるディエッサーと、リミッターを両方使い分けることができます。
DE ESS
ディエッサー・リミッターをバイパスにするかどうかを決める

ノブ(3K~12K) / LIMIT 10:1
ディエッサーで抑える範囲の周波数を決める
LIMIT 10:1にするとレシオが10:1のリミッティングがかかる

THRESHOLD
右に回すほどスレッショルドが下がる

ディエッサーと言えばボーカルのキツい子音を抑えるときに使うイメージがあると思いますが、ボーカル以外の楽器でも活躍します。
例えば、アコースティックギターの弦の音が出過ぎているときや、ドラムのうるさいシンバルを調整することもできます。
Manley VOXBOXのパラメーター6.OUTPUT

OUTPUTは、最終的な音量を決めるパラメーターです。
こちらもINPUTと同様、「OUTPUTを上げたからと言って独特なカラーが付け足される」というわけではありません。
ちなみにOUTPUTはハードウェア版(オリジナル版)にはなく、プラグイン版で追加されたパラメーターです。
Manley VOXBOXのパラメーター7:VUメータースイッチ

Manley VOXBOXのVUメーターでは、以下5つのパラメーターをメーターで表示することができます。
LINE IN
SOURCEがLINEになっているときのNPUT信号の平均ラウドネス
G-R
コンプレッサーのゲインリダクション量
PREOUT
プリアンプを通った後の平均ラウドネス
EQ OUT
EQを通った後の平均ラウドネス
D-S
D-Sディエッサーを通った後の平均ラウドネス
Manley VOXBOXのハードウェア・プラグインを購入する
Manley VOXBOXはハードウェア(実機)とプラグイン版を購入することができます。
ハードウェアは新品でも購入できますので、本格的な音楽制作をしたい方におすすめです。
Manley VOXBOX(ハードウェア)を購入する
