今回は、2probeatsが解説する「Fabfilter “Pro-MB”を使ってドラムにパンチを加える方法」をまとめました。
DTMerでは「持っていない人はいない」と言われるほど愛されているマルチバンドコンプレッサー「Pro-MB」ですが、ドラムにパンチを加えてさらにカッコよくするには、どのように使えばいいのでしょうか?
どのタイプのドラムにも応用できるテクニックですので、ぜひマスターしていきましょう!

はじめに知っておきたいDTM用語「コンプレッサー」と「エキスパンダー」について
はじめに、このPro-MBを使いこなすのに必要なDTM用語「コンプレッサー(Compressor)」と「エキスパンダー(Expander)」についてかんたんに解説します。
コンプレッサー(Compressor)
出過ぎた音を抑える。
※Compressには「抑える」「潰す」という意味がある。
大きな音を抑えて小さな音との音量差を縮める「ダウンワードコンプレッション」と、小さな音を持ち上げて大きな音との音量差を縮める「アップワードコンプレッション」の2種類がある。
エキスパンダー(Expander)
DTMにおけるエキスパンダーは「大きい音と小さい音の音量差を広げる」という機能がある。
※Expandには「広げる」という意味がある。
つまり、コンプレッサーは「小さい音と大きい音の音量差を縮める」のに対し、エキスパンダーは逆に「小さい音と大きい音の音量差を広げる」という、真逆の機能を持っていることになります。
それではこれらの知識を使って、ドラムにパンチを加える方法をご紹介します。
ドラムにパンチを加える方法1:ドラムバスにPro-MBを使う
まずは、ドラムバス(Drum Bus)にPro-MBを追加します。
ドラムバス:キックやスネア、ハイハットなど、ドラム類をすべてまとめているグループ。「グループチャンネル」「サミングスタック」など、DAWによってさまざまな言い方があります。
ドラムバスにPro-MBを使うことでドラム全体にコンプレッサーを使うことができるため、全ての楽器にパンチを出すことができるほか、より音がまとまって聞こえるようになります。
Pro-MBはマルチバンドコンプレッサーなので、よりパンチを出したい周波数帯域(楽器)とそうでない楽器の塩梅も細かく調整できるのが大きなポイントです。
ドラムにパンチを加える方法2:コンプレッサーモードからエキスパンダーモードに切り替える
次は、Pro-MBを「Compressor Mode」から「Expander Mode」に切り替えます。

画面上にある黄色い線をクリックすると、バンド(丸いポイント)が1つ増え、下にメニューが表示されます。
※メニューが表示されない場合は、対象のバンドを1回クリックすると表示されます
このメニューでは「COMPRESS」がデフォルトになっており、黄色く点灯しています。
これを、右隣の「EXPAND」をクリックすることでExpander Modeに切り替えます。

上記2つの画像を見ていただくとお分かりの通り、Compressor Modeのときはバンドが黄色い線の上にありますが、Expander Modeのときはバンドよりも黄色い線が下に置かれるようになります。
ドラムにパンチを加える方法3:Expanderを使いたい周波数帯域を探す
次は、Expanderを使いたい周波数帯域を探し、実際にExpanderを適用させます。
Pro-MBでは、選択しているバンドの左上に「S(Solo)」のマークが出ますので、このマークを赤く点灯させると、その周波数帯域だけをソロで聞くことができます。

このソロモードを上手に使いながら、自分がExpanderを適用させたい周波数帯域を見つけ、実際にExpanderを使うことで、パンチのあるサウンドを作ることができます。
ドラムにパンチを加える方法4:Expanderの設定を調整する
Expanderを適用したい周波数帯域を見つけたら、RangeやThresholdなどのパラメーターを調整し、理想の「パンチのある音」に仕上げていきます。
Range:どれぐらいトランジェント(音の立ち上がり、アタック)を強調させたいか
Threshold:この値を超えた音の音量をさらに上げる
Knee:Thresholdを超えた値を検知したとき、どれだけゆるやかにExpander/Compressorの効果をかけていくか(Kneeの値が大きい方が、人工的にバキっとかかる)
Lookahead:最大20ms前に音量の変化を事前に検知しておき、非常に速いトランジェントが来た時でも音割れせずに処理を行えるようにする。
Rangeを上げて、Thresholdを調整し、キックとスネアのピークだけに反応するように調整しましょう。
Attackは速め、 Releaseは速め〜中ぐらいに設定するのがおすすめです。
ドラムなどのトランジェントが大切な楽器に関しては、Lookaheadのパラメーターの調整も重要です。
Lookaheadの値を少し大きくしておくことで、速いトランジェントが来た時も音の歪みがなく、自然な音のままExpanderの効果を得ることができます。
Expanderでスネアにパンチを加えるコツ
Expanderでスネアにパンチを加えるために、スネア用のバンドを1つ追加します(動画中では青いバンド)。
スネアは通常、中低音域に音の根幹となる周波数帯域(音に重みを感じる部分)がありますので、その部分を中心にExpanderを使います。
設定は先ほどと同様、速いAttack、速い〜中ぐらいのReleaseです。
Expert Tabでさらに細かい設定をしてみよう

Fabfilter「Pro-MB」には、メニュー欄の一番右側に「Expert」というタブがあります。
ここをクリックすると、さらに細かい設定が表示されます。
「Band/Free」「In/Ext」「Audition」はサイドチェインに関わる設定です。
Band/Free
サイドチェインのトリガーとなる音の周波数帯域を、バンドで決めるか自由に決めるかを選択できます。
「Free」にすると画面上にバンドと同じ色の線が表示され、サイドチェインのトリガーにする周波数帯域の範囲を自分で自由に決めることができます。

※左右端にあるグレーの三角マークをドラッグして範囲を調整します
In/Ext
サイドチェインのトリガーとなる音を、今Pro-MBを挿しているトラックから出る音をベースにするのか、サイドチェインを設定している外部の音にするかどうかを決めます。
例えばキックとベースを別トラックに分けていて、ベースのトラックにPro-MBを挿しており、DAW上でサイドチェインを設定し、「キックが鳴っている時はベースの音量を下げる」という設定にしたい場合は「Ext」を選択します。
Audition
サイドチェインのトリガーとなる音だけを聞くことができます。
ここで聞こえる音に反応して、サイドチェインがかかっていることになります。
Stereo Link
Pro-MBで設定した効果を、左右(Side)と中央(Mid)のいずれかに対してどれだけ適用させるかを設定できます。

Stereo Linkのゲージのうち、左端が0%、真ん中が100%、右端が200%です。
0%:MidチャンネルとSideチャンネルを完全に分けて処理を行う
100%:MidチャンネルとSideチャンネルで同様の処理を行う
200%:Mid/Sideのいずれかのチャンネルに対してのみ処理を行う

ちなみにゲージを100%以上にすると、対象のバンドの上に「S」や「M」の文字が浮かび上がります。
例えば「Side」で200%(一番右)まで上げると、バンドに描かれる「S」の文字が一番濃くなります。
「Side」に設定した上で200%に上げると、Side(左右から聞こえる音)に対してのみPro-MBの効果を得ることができます。
ドラムにパンチを加える3つのコツ
ドラムをミックスするとき、パンチを加えるためには3つのコツがあります。
・CompressorではなくExpanderを使う(もちろん併用もOK)
・100~700Hz付近の中低音、中音域、高音域にExpanderを使う
・ExpanderはAttackは速め、 Releaseは速め〜中ぐらいに設定する
100~700Hz付近の中低音は、スネアやキックの「重さ」に関わる帯域です。
この帯域にExpanderを使うと、より重みとパンチが加えられます。
高音域は、もっとアタック感の強い「バシッ」「バンッ」とした部分の帯域ですので、こちらにもExpanderを使うと効果的です。
また今回はドラムに使いますので、打楽器特有のアタック感やパンチをExpanderで加えるため、Expanderを適用する速度をできるだけ速める=Attackを速めにすることをおすすめします。
それでは最後に、Pro-MBを使ってドラムにパンチを出した例を、Before/Afterで聞いてみましょう。
ほんの少し調整しただけでも、一つ一つの音がはっきりと聞こえるようになり、さらにパンチも加わっていることがわかります。
Fabfilter社「Pro-MB」を購入する
今回ご紹介したように、Pro-MBは音にパンチを加えたいときにとても有効なプラグインです。
マルチバンドコンプレッサーのため、パンチを加えるだけでなくディエッサーとして使うこともできます。
非常に万能なプラグインですので、まだお持ちでない方はぜひGETしてください。

さらにコンプレッサーを使いこなすためには?
今回登場したマルチバンドコンプレッサーや通常のコンプレッサーを使いこなすためのコツは、こちらの記事でまとめています🔻
さらにドラムにパンチを出す方法は?
Pro-MBを使ってドラムにパンチを出す方法の解説は以上となりますが、音にパンチを出す方法は他にもたくさんの方法があります。
さらにミックスのテクニックを知りたい方は、ぜひこちらも参考にしてください。